忍者ブログ
おのづから言はぬを慕ふ人やあるとやすらふほどに年の暮れぬる(西行)
×

[PR]上記の広告は3ヶ月以上新規記事投稿のないブログに表示されています。新しい記事を書く事で広告が消えます。

憑神

 

妻夫木聡という俳優の評価には、いつも悩みます。

はじめて観たドラマ『リミット もしも、わが子が』では、女教師と彼女の二股をかけたうえに幼児誘拐に加担する屈折した高校生を演じていて、「これはすごい新人だ!」と感動さえ憶えたのですが、『ブラックジャックによろしく』では原作が良かっただけに物足りない演技でした。

『ジョゼと虎と魚たち』や『約三十の嘘』の存在感は素晴らしかったのに、『天地人』は「論ずるに値しない by原監督」でした。

最近では『悪人』(未見)の評価が非常に高いようです。CMでののび太も好演です。

結局この俳優は、役に対して非常に向き不向きが激しいのだと思います。

さてこの『憑神』なのですが、結論から言うと「がっくり」の方でした。

とはいえ、妻夫木くんのせいだけではありません。原作が浅田次郎ということで、おそらく「ハズレ」の題材ではないでしょう。幸運を得るお稲荷さんに参ったはずが、酔いのまぎれに間違えて災いの神を招きこんでしまうというありふれた漫画チックな導入と、生き方を探る若い武士、動乱の時代という設定をうまく混ぜ込んで、笑いと悲哀、一種むなしさにも似た感情さえ生まれる、まるで『陽だまりの樹』のように、さまざまなエッセンスを盛り込んだ非常に贅沢な作品であると思います。原作は。

しかし2時間近くかけてたどり着いたラストに、ちぐはぐ感は否めませんでした。三種の神はそれぞれ魅力的ですが、シーンの統一感がありません。佐藤隆太に佐々木蔵之助、夏木マリなど個性的な俳優をキャスティングするのはいいのですが、描き込み不足でもったいない。歴史背景は著名な人物を登場させることで説明に変え、主人公の人生を完結させるための舞台装置にしかなっていません。ラストシーンは何故必要だったのか甚だ不思議です。

いっそ『どろろ』のように、時代設定を無視したファンタジーにすれば良かったのにと思います。榎本武揚や勝海舟という歴史上の人物を登場させなくても、なんとか成立したのではないかと。(しかも勝は坂本龍馬と口調が違うだけの完全なるミスキャスト)

妻夫木くんは、まあまあ頑張っていたと思います。ちゃんとした武士の姿は『天地人』以来ですが、あれよりもハマっていてナンボほど見がいがありました。滑舌の悪さはいかんともしがたいですが・・・。若さゆえの苦悩する姿はやはり適役なのだろうと思います。ですから、最後死神に憑かれて以降はあまりハマっていませんでした。

予告でのドタバタ喜劇のイメージが強く、ちょっと期待が大きすぎたようでした。

主人公が決死の地と定めたのは上野寛永寺ですが、そういえば『陽だまりの樹』の万二郎が命を落としたのも上野でした。戊辰戦争といえば箱館や会津が多く語られますが、多くの若い隊士がたった一日にしてあたら命を散らした上野彰義隊の悲劇も捨て置けない歴史的事象であったと思います。杉浦日向子『合葬』は今でも表紙を見ただけで涙があふれてきます。

『陽だまりの樹』は春からBS時代劇でドラマ化されるので、今から楽しみにしています。この映画で主人公の妻を演じた笛木優子がお品役ですが、薄倖のイメージが続くようで(『さくら心中』はともかく・・・)。陶兵衛を誰が演じるのか気になるところです。

評価:★★★☆☆

PR

キャタピラー

ベルリン国際映画祭において、主演の寺島しのぶが最優秀女優賞を受賞したことでも話題になった作品です。

モチーフは江戸川乱歩作『芋虫』だそうですが、戦場において四肢と聴覚、声を失い「軍神」として帰還した久蔵と、その妻シゲ子の物語。

おそらく、監督がこの映画においていちばんに主張したかったことは確固たる【反戦】の姿勢だったのだろうと思います。

ストーリーの中に差し挟まれる当時の映像とラジオ音声、そして最後に提示される戦死者の数。ラストで元ちとせが歌う『死んだ女の子』は、ヒロシマで亡くなった少女の話です。

この歌が素晴らしいことは確かですが、ヒロシマと本編はかかわりなく、唐突な印象を与えられます。

映像も今現在ではテレビで到底お目にかかることのない、ショッキングなものばかりでした。

久蔵とシゲ子夫婦も相当にショッキングですが、やはり事実には勝てません。

「戦争は悲しい、恐ろしい、愚かなことだ」という監督の思いは、久蔵とシゲ子の悲惨な物語の中で充分に暗示されており、これらが少し蛇足の感を抱かせたことは残念であったように思います。

ただ、この映画が本編だけであったなら、不快感や薄気味悪さにも似た、早く記憶から抹消したくなるような後味が残ったことは確かです。

 

男は、浮気や風俗の体験は自慢げに語るくせに、夫婦の閨房の話は一切他言しようとしません。私は男ではないからわかりませんが、どうやら話したくないようです。聞きたくもないそうです。AVにも夫婦ものなどというジャンルは存在しません。勝手な想像ですが、おそらくそれは浮気や風俗と違って、家族としての営みだからではないかと思います。

つまり、子孫を繁栄させるといういかにも動物的な本能に従っての衝動であり、心をときめかせるような甘い言葉もなければ新しい感動もなく、恋だの愛だのスリルだの、交合に対して人間だけが求める興奮もない。

「食べて、寝る」。そして「交わる」。動物だった頃から変わらぬ人間の欲求を発散している現場を垣間見ても、自分も同じ動物であることを思い知らされるだけで、愉快になれないのは自然なことかもしれません。

だからこそ、食べて寝て交わる「だけ」の生活を送る久蔵の姿を見せられ続けるのは、非常に苦痛な時間でした。

 

戦争によって変わってしまった久蔵。

しかし彼が出征前、シゲ子にとって良き夫であったかといえば、決してそうではなく、シゲ子は毎夜「石女」と罵られ殴られ犯されていました。その頃から久蔵は、シゲ子にとって「食べて、寝る」そして「交わる」だけのキャタピラーだったのかもしれません。

ただ、本当にキャタピラーになってしまった今は、力で征服されることなく、シゲ子の思いのまま。

四肢のかわりに得た勲章。いつの間にか、それらは軍神・久蔵の軍服ではなく、子を産まぬ非国民からうってかわって「献身的に夫を介護する日本女性の鑑」と崇められるシゲ子の胸に光るようになる。

腕力と軍神様の威光によって妻を屈服させていた久蔵はシゲ子に支配されるようになってはじめて、四肢とともに失っていたある記憶を呼び起される。

その苦しみをシゲ子は知らない。のたうちまわる久蔵を貶めて嘲笑う。

妻なら、夫の苦しみに寄り添ってやるべきではないのか。

夫なら、妻に感謝し今までの暴虐を謝罪すべきではないのか。

そんな薄っぺらい建前論では語れない。愛だの憎しみだの、ここには一切の感情も生まれていない。

観ている側としては、人間だから、本当はそこに愛が欲しい。

この絶望的な夫婦にも、最後には愛が生まれるのではないかと、実はほんの少し期待していました。

でも、そんな時代ではなかった。

終戦が訪れても、ふたりのそれぞれの戦いに本当の終わりは来なかった。

最後まで、そこに愛はなかった。

人が人を殺してもゆるされる、戦争。

生まれいでて生かされるべき命が容赦なく見知らぬ誰かの手によって奪われていくのが戦争。

人でしかない人が、神と崇められるのが戦争。

愛のない夫婦が愛を得ることなく続けた夫婦生活、

それは互いに戦争の孕む狂気によって繋ぎとめられていただけだったのかもしれない。

8月15日。あらゆる意味での解放の日が来ても、そこに救いなど存在しない。

それこそが、戦争がもたらした傷あとなのかもしれない。

評価:★★★☆(3.8)

候補→本年鑑賞した26作品より(ヤスオーは鑑賞作品が少ないため選考辞退)

 

★長編アニメ賞★

トイ・ストーリー3

《アニメとは思えない迫力と心理描写に感動を憶えました》

 

★脚本賞★

該当なし

 

★監督賞★

アン・リー(ラスト、コーション

《強烈な愛欲と憎しみの世界に溺れました》

 

★助演女優賞★

モニーク(プレシャス

《主人公の母親の愚かにも哀しい演技には心突き動かされました》

 

★助演男優賞★

山田純大(男たちの大和/YAMATO

《軍人としての誇りや諦念を凝縮した演技に打たれました》

 

★主演女優賞★

ノオミ・ラパス(ミレニアム ドラゴン・タトゥーの女

《名演ばかりで悩みましたが、まったく知らない女優の熱演に驚きました》

 

★主演男優賞★

トニー・レオン(ラスト、コーション)

《人間の強靭さと矮小さを体現した演技に圧倒されました》

 

★作品賞★

ラスト、コーション

《煩悩から逃れられない人間が生きるとはどういうことかを考えさせられる作品でした》

 

来年は、もう少し映画を観たいと思います・・・。

源氏物語 千年の謎

文学とは高尚で価値あるもの、と大上段に構えた教科書で学ぶ『源氏物語』はしょっぱなから抵抗を憶えて本当につまらなかったのに、文法やら単語やら、細かいことは抜きにして恣意的に触れた源氏は、はじめて出逢ってから20年以上経つのにいまだ私を惹きつけてやみません。

最初の印象はホラー、そして数々のラブアフェア、今では壮大な人間ドラマ、いつの世も変わらぬ愚かな人間を縛る因果律。

なぜ文学と称されるものが高尚で価値あるものなのか、わかったような気がします。

物語の持つエネルギーは永遠であり、文法や単語がわからなくても、それを感じることができ、己の人生の方向にわずかでも力を加えたなら、充分なのではないかと思うのです。

文学とは文字で表現されるもの。たやすく動画に互換することができないからこその文学だと思います。

とりわけ、源氏はその長さもさることながら、光源氏という一種の超人が主人公なので、既存の俳優が演じてしまうととたんに俗的になってしまい、いかにもドラマくさくなってしまいます。ずっと昔にドラマを観ましたが(ヒガシ主演)案の定イメージとはかけ離れており、ただの貴公子の女遍歴になっていてがっかりしました(その点、別メディアで表現した『あさきゆめみし』は稀有な成功例だと思う)。

と、いうわけで、この映画も『源氏物語』の映像化とはあえて思わずに鑑賞しました。

現実と物語とが交錯するファンタジー、なぜ紫式部は『源氏物語』を書いたのかというミステリー、主人公の恋愛、そしてホラーと、ぜいたくにいろいろ盛り込んだ作品になっていました。

現実世界と物語世界の境目がなくなるという手法は『インランド・エンパイア』を思い出しますが、あれほどのわけわからなさはなく(あれが異常だが)しかも唐突で、作者が源氏を執筆した理由もあおり文句にするほどの意味合いはなく、女人のキャスティングはどういう基準なのか不思議なくらいミスキャストで名の通った女優ばかりですからもちろん情事もアッサリで、つまりほとんどにおいて消化不良でした。

良かったのは生田斗真の立ち居振る舞いでしょうか。光源氏を演じるに値する貴公子っぷりでした(その演技力はともかく・・・)。俳優としてあまり見慣れておらずイメージが固定されていないせいもあるのでしょうが、陰のある顔立ちは、現代的にもかかわらず、直衣姿もさまになっていたと思います。青海波はきっとこんな感じだったのだろうなあと思わされる美しさでした。あと田中麗奈は熱演でした。六条御息所を演じると聞いて、「えー、実年齢は確かに近いかもしれんけど、もっと年増の色気ある女優にしてよ。健康的すぎるやん」とかなり不満だったのですが、いやー、女優魂を見ました。メチャメチャ怖かったです。数多いる女人の中でナンデ六条がほぼメインにされたのかは謎ですが、六条がヘボだったら救いようがなかったくらい、源氏と女人の絡みパートはしょぼかったので、あっぱれです。セットや衣装も豪華でした。どこかで観たような風景がたくさんありました。所作にもこだわっていたように思います。エンディングの源氏袖ヒラヒラには何の意味があったのでしょうか。

日本最高峰の文学作品として『源氏』映像化を望む製作者は多いかもしれませんが、やはり文学は文字で楽しむのがいちばんではないかと・・・。

で、またぞろ源氏を読みたくなってしまいました。

評価:★★★☆☆

カイジ2~人生奪回ゲーム~

とってもひさしぶりに映画を観ました。しかも映画館で。

前作が原作以上に面白く仕上がっていたので(原作のイイトコどりだったので当然といえば当然なのですが)、今回はどうかな・・・と少しばかり不安を持ちつつの鑑賞だったのですが、結果的には前作に優るとも劣らない出来で、最後まで興奮の連続でした。

藤原竜也の熱演に負うところが大きいと思います。カイジよりもカイジらしい、いやむしろカイジそのもの。

チンチロリンがオープニングだけだったのは残念でした。ぜひスピンオフドラマとして放送してほしいですね。せっかく松尾スズキという怪優をキャスティングしたのですから、あのうさんくさいうすら笑いを観てみたかったです。

「姫と奴隷」は、『カイジ』独特の心理戦、頭脳戦とはまったく色合いが異なり、見ごたえがありませんでした。わざわざ新ゲームと銘打って宣伝するほどではなかったような・・・最初の伏線が生きてくるのはナルホドと感心しましたが。

香川照之、生瀬勝久、伊勢谷友介らは原作のキャラとは乖離しているものの、それぞれ個性を生かした演技で、映画版『カイジ』を盛り上げていました。「沼」のセットも迫力がありました。原作ではカイジが「ぐっ・・・ぐっ・・・」後ろが「わーわー」だけという動きのない一連の流れも、藤原竜也の気合いの入った表情とセリフまわしで、ずいぶん見栄えがするものです。

残念だったのは吉高由里子。男クサイ画面に華を添えたかったのでしょうが、前作の天海祐希と違ってコスプレを含めた女っぽさを前面に出してしまったために、『カイジ』らしさが欠けてしまったように思います。この女優をはじめて観たのは『あしたの、喜多善男』というドラマで、非常に個性的な女性を演じており「いい女優さんが出てきたなあ」と感心したのですが、最近「天然の不思議ちゃん」キャラが定着してしまったためか、演技にまでそれが影響してしまっているように思えます。他の役者の抑揚が強いだけに、一本調子の彼女の喋り口調は浮いてしまっていました。

前作のラストは、原作では沼編のオチだったので、今回こそカイジは大金持ちになるのかなあと思っていましたが、そう来ましたか。ちょっと利根川のキャラが変わっていたのが気になるものの、痛快なラストでした。

二度までも同じような手口で大金を騙し取られたカイジですが、もう3作目はないでしょうね。だって麻雀だし・・・読んでないけれど・・・。

評価:★★★☆(3.8)

カレンダー
12 2025/01 02
S M T W T F S
1 2 3 4
5 6 7 8 9 10 11
12 13 14 15 16 17 18
19 20 21 22 23 24 25
26 27 28 29 30 31
プロフィール
HN:
さや
性別:
女性
自己紹介:
ヤスオーと古都の片隅で暮らしています。プロ野球と連ドラ視聴の日々さまざま。
ブログ内検索
バーコード
ATOM  
ATOM 
RSS  
RSS 
Copyright ©   風花の庭   All Rights Reserved
Design by MMIT  Powered by NINJA TOOLS
忍者ブログ [PR]