昨シーズン、フィギュアスケートのシングル競技でボーカル入りの曲が解禁されるやいなや、多くの選手が『オペラ座の怪人』を使用しました。おなじみのメロディーはもともと耳にする機会がたびたびあったとはいえ、劇団四季の舞台も行ったことがないのでストーリーを知らず、ファントムやクリスティーヌのことを理解してからプログラムを見たかったなという思いが強かったのですが、ようやく鑑賞できました。
幾度も映画化されているこの有名なミュージカルですが、こちらは2004年に製作されたものです。
『オペラ座の怪人』といえば、シャンデリアの落下や、『The Phantom of the Opera』に代表される名曲の数々、ファントムとクリスティーヌの師弟関係など乏しい知識しかないため、パリのオペラ座でくり広げられるミステリアスで絢爛豪華なラブファンタジーだとばかり思っていたのですが。
これほどまでに悲しく切ない恋模様が描かれているとは、思いもしませんでした。
ファントムを“Angel of Music”と慕い敬うクリスティーヌ。彼女の類まれなる歌の才能を磨き続けてきたファントム。映画では直接描かれませんでしたが、ふたりの間に師弟の固い絆が結ばれていたのは言葉の端々から伝わります。弟子であったはずのクリスティーヌに対し、それ以上の想いを抱いていたことを、くしくも彼女の恋人が出現してから思い知らされるファントム。オペラ座の怪人として桟敷席から人びとを見下ろしてきたはずのファントムが、彼らと同じ場所に降り立つ時がやってきました。
ファントムに手を引かれ、うす暗くじめじめとした地下室にいざなわれるクリスティーヌ。恐怖や不安は、甘美な歌声の前に溶けて消えていく。それはファントムの魔法だったのかもしれない。ファントムの思いどおり、クリスティーヌはたやすく恋に落ちた。
しかし、魔法が解けやすいのもまた、女の習性。
クリスティーヌが優しく紳士的な幼なじみのラウルに惹かれていくのは、ごく自然ななりゆきだったのでしょうが、嫉妬や欲望に狂ったファントムはその事実を受け入れられない。仮面の下の醜悪な容貌は、ファントムの歪んだ心そのものだったのかもしれません。
ファントムに捧げたクリスティーヌのキスは、その苦しみと悲しみを浄化する聖母のくちづけでした。人の心を取り戻した怪人の最後の魔法は美しい愛へと姿を変えて、至高のミュージカルは幕を閉じます。
いつの世も、男女の胸をうち震わせるのは激しい恋と甘い歌と情熱的な音楽。
この物語が名作として演じ続けられているのもわかります。まだ夢の世界にたゆたうよう。いつか四季の舞台を見に行きたいと思いました。少し残念だったのは、テレビ放送版で吹き替えだったので、素晴らしいと評判のクリスティーヌ(エミー・ロッサム)の歌声が聴けなかったこと(ファントム役のジェラルド・バトラーの歌はイマイチらしく字幕も誤訳が多いとのこといですが)。そして、見せ場であるはずのシャンデリアの落下シーンが迫力に欠けていたことでしょうか。
そして改めて思ったのは、昨シーズンのプログラムの中ではやっぱり無良崇人くん演じた苦悩するファントムがいちばん好きだということです。
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