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おのづから言はぬを慕ふ人やあるとやすらふほどに年の暮れぬる(西行)
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あべのハルカスで開催されていた『フィラデルフィア美術館浮世絵名品展』。
「春信一番! 写楽二番!」という広告を見た瞬間、ピコーンと反応しました。
春信好きとしては、なんとしても行かねばならぬ。

その割には、展示期間終了間際にようやく来館。

浮世絵の歴史をたどりつつ、名作の数々を堪能できます。
しかもうれしいことに、絵画展のように額に飾られ壁かけで展示されているので、鼻先までくっつけて、繊細な曲線や色づかいをじっくり堪能できるのです!

春信の魅力は、男も女も細身で可憐なのに匂い立つような色気を感じられること。
歌麿や後世の浮世絵師のように、ぷっくりした感触を表現している画風も素晴らしいですが、春信の余分なものを削いだようなシンプルな曲線美も、タマランのです。
そして日常の何気ない風景からも、雨のにおい、夏の夕風、夜闇の重さ、そしてそこに生きる人びとの呼吸とぬくもりを感じ取れます。
それは春信以外の展示画も同じ。名画と呼ばれる数々の浮世絵に絵師たちが吹きこんだのは、当時の人びとの生命力と、太古から人びとが畏れ、崇めた自然の雄大美。
数百年の時を超えて五感に触れる生々しい命のいとなみ。
浮世絵のすばらしさは、そこにあります。

さて、錦絵誕生250年の今年はあちこちで浮世絵展が開催されました。
奈良県立美術館でも『浮世絵版画 美の大世界』展が。
 
入館料400円(実際は金券ショップで購入したのでもう少し安価)。正倉院展やハルカス美術館に較べると、安っ!
この価格(とわずかな客入り)でじっくりゆっくりどっぷり楽しめる浮世絵の数々、とくに『名所江戸百景』は素晴らしい見ごたえ。
個性的な図法や視点の位置から描かれた江戸の町並み。人びとの喧騒や船頭の声、鳥のさえずりが今にも聞こえてきそうです。
歌川広重は、安政の大地震をきっかけに『名所江戸百景』の作成に取りかかった、という説があります。
絵の隅にはお上の検閲が済んだ証の「改印」もついています。当時の浮世絵出版事情がうかがえて興味深いですが、復興祈念作品としての意味合いを持っていたということは、ただ単純に公序良俗に反するか否かだけをチェックしていたわけではなかったのでしょう。それを知っていれば、これらの絵はまた違う感慨をもって映ったことでしょう。
しかし…。
前回もそうだったのですが、ほとんどの絵はガラスケースの中に飾られています。
遠い!
細部までわからない!
うーん、絵画の展示方法は一考してほしいところです…。

版を重ねるごと色あいが異なってきて、一枚一枚違った風合いを見せるのもまた、浮世絵の魅力。
名を残すのは浮世絵師のみですが、もちろん複写印刷のない時代。浮世絵が現代に残され、我々がその美を堪能できているのは、彫師、摺師の高い技術があってこそだと思います。
名前が絵の隅に書かれていることもありますが、いったいどのような熟練の業師が著名な浮世絵の第一版を作りあげたのか…やはり緊張したのかなあ、彫刻刀が震えたりして…などと想像すると楽しくなります。その技術力もどこかでクローズアップしてくれないかなと思っています。

かつて永谷園のお茶漬けの袋に入っていた浮世絵のカードを集めていた私。
大学でも浮世絵の研究がしたかったのですが、どちらかというと美術の分野なのでセンスのない人間は早々にあきらめました。
こうして美術展に行ったり、本を読んだりして、ちまちま楽しんでいます。


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