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おのづから言はぬを慕ふ人やあるとやすらふほどに年の暮れぬる(西行)
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『破裂』
椎名桔平が香村医師という複雑なキャラクターを真摯に演じたことによって、見ごたえのあるドラマになり得たと思います。香村は人類を救う夢の治療法の実用化に使命感を燃やす一方、研究のためなら医療ミスさえもみ消そうとする野心家の側面を持ち、父に捨てられた過去から息子に素直な愛情を向けられない不器用な父親でもあり、ひとことでは言い表せない多面性を持つ、いわば非常に人間くさい人間です。物語が展開していく中で、さまざまな事象と周囲の人びとに香村の思いは揺れ動かされ、それが行動の原理となってさらに新たな筋が広がっていくという、スリリングな展開もスッと心の中に入ってきて次週が待ち遠しくなる、完成されたサスペンスドラマでした。全7回という民放ドラマに較べると短い尺の中でも、話が矛盾することも詰めこみ感もなく、脚本と演出と演じ手が見事に調和していました。
滝藤賢一・仲代達矢が対峙した場面も緊迫感がありました。主役級三人の演技力がドラマの質をいっそう高めたと思います。倉木蓮太郎の遺作となった映画作品も、わずか数シーンでしたが倉木がそれに賭ける思いが伝わってきて、それ単体でスピンオフ公開してくれないだろうかと思うほど内容が気になりました。
認知症の母を抱え生死の選択のはざまで苦悩する厨を演じた甲本雅洋、怪しさ満載の小池役のモロ師岡、脇を固める俳優陣も充実していました。
原作は11年前に出版されたそうです。11年経った今も、増加していく高齢者問題はバラマキと緊縮をくり返し、解決の糸口すら見えません。
生きたい、と思う人間として当然の希求。
死にたい、と思う人間ならではの苦しみ。
夢の治療法から一転、悪夢のスパイラルを想起させるラストシーンが衝撃的でした。
死ぬために生まれたはずの人間に、なぜ生への執着心が備わってしまったのだろう。
神は人が人を殺めることを許さない。ならば乗り越えるしかない。本能に抗い死ぬことへの恐怖を。それが人に神から与えられた最期の試練なのだろう。



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ヤスオーと古都の片隅で暮らしています。プロ野球と連ドラ視聴の日々さまざま。
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