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おのづから言はぬを慕ふ人やあるとやすらふほどに年の暮れぬる(西行)
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愛。それを知るには幼すぎた15の夏。

マイケルは女車掌のハンナと運命的に出逢い、情事に溺れる。しかしある日突然、ハンナはマイケルの前から姿を消してしまう。再び、彼女を観たのは8年後。法学生として傍聴していた裁判で、ハンナはナチスとかかわりユダヤ人を見殺しにした被告として裁かれようとしていた。そしてハンナは、無期懲役の刑に処せられる。マイケルも知る、ある秘密を隠したまま。

欲情のために情交を結ぶのは、人間だけかもしれない。

ただそこに愛を求めるのも、人間だけかもしれない。

私は女だから男心はわからない。だが、初めてのひとというのが男女問わず特別なものであったなら、マイケルはもう一生ハンナと再会しないことを前提に、15の夏の鮮烈な経験を心の細工箱に仕舞い込んだことだろう。美しいひと、自分を褒めてくれたひと、自分に自信をつけてくれたひと、自分を変えてくれたひと。アフロディテのようなひととのひと夏の思い出の引き出しを、二度と開けるつもりはなかっただろう。

しかしあえなくも、その鍵は破られる。ハンナそのひとの手で。

法廷、戦犯、被告、実刑。およそあの部屋のあのベッドとはかけ離れた硬質な世界にハンナはいた。

一瞬にして思い出は色あせる。目の前にいるのはアフロディテではなく、罪を問われやつれた中年女。

マイケルは何を思ったか。

彼女を救わず、無期懲役に処せられた彼女に朗読テープを送る。それにより文盲を克服した彼女からの手紙を無視し、出所時に迎えに行く。

矛盾した行動が、孤独なハンナの心をいかに揺り動かしたか。

マイケルの復讐だったのだろうか。

彼はハンナを愛していたのだろう。15の夏は確かに。しかしハンナの心を受け止めるほどに、大人ではなかった。ハンナの思いを知らなかった。愛を語らないハンナに、一方的な愛を語り、気まぐれな若さを押しつけた。その夏のままに、年齢を重ねた彼は、ハンナに相対する。しかし彼は、それによりハンナが傷つくことを解っているだけの人生経験を積んでいる。その罪の意識から逃れる方法も知っている。

ハンナはあの夏のまま、受け流す。彼の愛を読む。彼の復讐を受け止めるために。

マイケルは最後まで愛を語る。しかし彼が愛を読んだことがあっただろうか。

「愛を読むひと」--もしかしたら、それはハンナだったのではないだろうか。

評価:★★★★(4.6)

 

 

~ヤスオーのシネマ坊主<第2部>~

 やっと新しい職場にも少しは慣れてきて、ほぼ1か月ぶりに映画を観たのですが、けっこうな名作だったので良かったです。原作モノの映画なのでもちろん原作の力もあるでしょうし、僕は原作を読んでないので映画と原作の違うところもよくわかりませんが、異性への恋心やホロコーストに関しての道徳意識だけでなく、苦しみや悲しみや葛藤やプライドや屈辱感や迷いやためらいや混乱などとにかく人間の色々な感情が上手に描かれています。登場人物、と言ってもマイケルとハンナの二人だけですが、この二人の善悪がかなり判別しづらい。登場人物二人とも、同情する部分もあるし、これはいかんなあと思う部分もある。好きな部分もあれば、嫌いな部分もある。キャラクター描写も非常に深いですね。ホロコーストを扱っているので社会派なところもあるにはあるんですが、それはあくまで味付けでしょう。かなり奥が深く出来の良いラブストーリーです。

 最初は完全にAVですしね。どうしてハンナはマイケルが部屋を出て行ったかどうかを確認せずにパンストを履くんでしょう。こういう女の方のわざとらしいエロアピールは義母と息子モノのAVでよくある展開です。おそらくマイケル15歳の時はハンナはマイケルのことを好きじゃなくて、AV言葉で言うと彼女の痴女の側面だったのかもしれませんね。失踪は彼女の人間性の中でかなり大きなウエイトを占める理由があるから許すとしても、裁判のシーンからみるに小説を朗読してくれるのは別に好きな男性でなくてもいいようですし、ハンナがマイケルを心から愛してるような描写がこの時代はないと言ってもいいです。この時のマイケルはハンナにとって自分が女性であることを意識したいがためのバター犬のような扱いだったのかも知れませんね。

 ちなみに僕は自分より年上の女性の裸には基本興味がありませんが、ケイト・ウィンスレットは数少ない例外です。この役を他の女優がやったらキツかったですね。途中でイヤになって観るのを止めたかもしれません。しかし僕の好みを抜きにしても、この役は彼女以外に考えられませんね。アカデミー主演女優賞を獲ったようですが、そりゃそうでしょう。

 逆にマイケルとハンナが再会した時は、マイケルの態度がちょっと冷たすぎると感じました。もちろん戦争犯罪の加害者側だったハンナに対しての理解が不十分だったというのもあるんでしょうが、僕にはハンナが普通のババアになってしまっていて昔自分が夢中になっていたハンナとのあまりの違いにショックで引いてしまったようにも思えました。男の方はまだまだモテているような描写がオープニングでありましたし、十分現役ですしね。ハンナのその後の行動の原因も、おそらくそれだと思います。「坊や」とか言って昔のノリでいってしまったけど、相手はもう自分を女性とは見ていないということに絶望したんでしょう。その後のマイケルがユダヤ人のとこに行ったり娘にハンナの話をしたりするのも、愛するハンナのためというよりもハンナによって色々心かき乱された自分の人生にケリをつけて新しい人生を歩みだそうとしているように見えました。 

評価(★×10で満点):★★★★★★★★★

監督賞候補…スティーヴン・ダルドリー

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