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おのづから言はぬを慕ふ人やあるとやすらふほどに年の暮れぬる(西行)
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『八甲田山』など日本を代表する名カメラマンである木村大作が、68歳にしてはじめて監督をつとめた作品です。

舞台は明治、日露戦争を終えた直後。陸軍測量部の柴崎は、国防のため日本地図唯一の空白地点である劔岳の測量を命じられる。かつて先人が幾度も挑んでは敗れた前人未到の難峰。陸軍が測量を急かすのにはわけがあった。ただ山登りだけを目的として発足した日本山岳会が同様に劔岳登頂をめざしており、軍部が金持ちの道楽に先を越されるわけにはいかないのである。

陸軍の威信をかけて、柴崎は立山へ出発する。

実は、浅野忠信主演の映画を観たのはこれがはじめてなのですが、寡黙で冷静な測量士を好演しています。国防や初登頂という名誉よりも、任された仕事を確実に、丁寧にこなす、いかにも技術屋ふうな素朴さが巧みです。

柴崎に同行するのは若手の測量助手・生田。血気盛んでせっかちで、でも情にはもろい、こういう役をやらせたら松田龍平の右に出る役者はいませんね。関係ないけど缶コーヒーのCMには萌えます。

そして彼らの登山を案内するのが、宇治長次郎。もうおなかいっぱいだよという感じの香川照之ですが、どの役からも全身全霊打ち込んでいる役者魂を感じます。今回も山案内人という役割に誇りを持つ山の男の静かなる炎がその両目に見えました。

順撮り・CGなし・空撮なしという、おそろしくアナログな方法で制作された作品だけあって、丁寧で繊細、かつ骨太でした。映画としての出来は非常に荒削りで演出も脚本も音響もイマイチなのですが、美しい夕空を背景にしたカット、一面の雪道を歩く測量隊の遠景など、山のありのままの風景を最大限に利用し、測量隊の登攀過程の苦しみ、恐怖、痛み、すべてが本能に直接伝わってくるようでした。

実際に山に登り、雪にまみれた出演者の談話はDVDに特典映像としておさめられていますが、笑っていいのかどうか悩んでしまうエピソードが多く語られていました。

現代においてこういう映画を作ることはむなかなかずかしいのかもしれませんが、たまには小手先の技術やちょこざいな演出にまどわされない、裸一貫のような作品を観てみるのも、いいことのように思います。

評価:★★★☆(3.3)

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