ラグビー日本代表が、強豪南アフリカを破る大金星。
早朝目が覚めて、時計がわりにのぞいたスマホのトップ画面に表示されていたニュース速報の文字に、眠気も一気に吹き飛びました。
18日に開幕したラグビーW杯。20日未明に日本が初戦を戦うことはもちろん知っていましたが、試合開始があと二時間早ければ、生観戦したんだけれどなあ…と惜しみながら床に入ったのです。
世界はこの勝利を「奇跡」と評しました。
しかしそれは、日本代表のなかでは「必然」だったのです。
勝つことを大前提として、世界一の練習量を積んできたのですから。
このW杯を前に、日本は劇的に強くなりました。エディー・ジョーンズHCが組み立てた「JAPANWAY」なる方法論で、フィジカルの劣る日本が世界に勝てるチームをめざし、この3年半を過ごしてきました。
目標は「ベスト8」と言いきり、世界ランク3位の南アフリカにも「勝つ」と宣言したHC。選手たちもまた、「新しい歴史を作る」と意気込んでいました。
しかしラグビーほど、チーム力の差が出る競技もありません。イギリスの大手ブックメーカーのオッズは日本の34倍に対して、南アフリカはたったの1倍。すなわち、世界のほとんどが南アフリカの勝利を信じて疑わなかったのです。
私もそのひとりでした。
結果を知りながら視聴した再放送。
低いタックル、精度の高いゴールキック、速いパス回しと運動量、スクラムでも押し勝つ力強さ。
四年前、なにげなく目にした
W杯フランス戦の日本代表とはまるで異なるチームが、そこにありました。
イングランドの観衆はたちまちその桜に魅せられました。響き渡る「Japan」の大合唱。
四年前の大差をつけられたあとの日本へのコールは、弱きものを見守る温もりでした。
しかし今ここに響く、日本の勝利を信じて沸き起こる盛大な拍手と歓声は、新たな勢力の出現を目のあたりにした歓喜、そして惜しみない称賛の熱気です。
着々と反則を奪い、キックを決め、ゴールラインを守り続ける日本に対し、優勝候補スプリングボクスはまるで見せつけるかのように鮮やかな速攻を決めます。しかし何度突き放されても食い下がる日本。終盤に入っても息切れしない。稲穂のごとくよみがえり、走り続ける。
先に焦れたのは、リードしている側だったように見えました。
試合終了も迫った73分。ペナルティを獲得した南アフリカは、ゴール手前であったにも関わらず、モール攻撃でなくキックを選びました。決めても3点のペナルティゴールに対し、トライなら5点入れられるにもかかわらず、南アフリカが選択したのは、守りの姿勢でした。そしてそれは、日本が精神的優位に立った瞬間でもあったのです。
ラスト1分。相手の反則で得た最後のチャンス。
日本が選んだのは、決めても同点のキックではなく、スクラムでゴールラインを突破することでした。
勇敢な決断。スタジアムを揺らす大歓声。客席で涙を流す日本のファンの姿。言語も目の色も髪の色も異なる人びとが放つ、鳴りやまぬ「Japan!!」のコール。
日本は、攻めて、攻めて、攻めぬきました。
「これがサムライ魂です!」と声を裏返す解説者。「行けーっ!」と絶叫する実況アナ。日本中のだれもが、その言葉を重ねたに違いありません。
結果を知っているはずなのに、手を握り身をのりだし歯を食い縛り、その瞬間を目に焼きつけました。涙の向こうに見えるこの景色は、本当に現実のものなのかと信じがたくて、何度も目をこすってしまいました。
1995年。南アフリカが自国開催のW杯で劇的な初優勝を遂げた大会で、「ブルームフォンテーンの悪夢」と呼ばれる歴史的大敗を喫した日本。
それから20年。くしくも南アフリカを相手に、「ブライトンの奇跡」を起こした31の桜の花。
奇跡ではない、必然だ。
力強く言い放った選手の言葉に、自分の今まで見て感じてきたものがいかに矮小な価値観に縛られていたかを知りました。
それでもこの勝利を見届けることができたこと。歴史の扉が開かれる瞬間に触れたこと。全身を震わせる大きな感動を得たこと。それは私の中で、大きな「奇跡」のひとつとなったのです。
スコットランド戦はわずか3日後。
きっと、世界は日本の勝利を「奇跡」ではなく「必然」と呼ぶようになる。
そんな戦いを見せてくれることを信じています。
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