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おのづから言はぬを慕ふ人やあるとやすらふほどに年の暮れぬる(西行)
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  富良野線をうとうとしながら、旭川へ戻ってきました。

次なる目的地は、『泥流地帯』の作者である三浦綾子記念文学館です。
こちらは旭川から徒歩15分、『氷点』の舞台となった見本林の入り口にあります。



そこまでの道は「氷点通り」と名づけられています。旭川に根づいた『氷点』のイメージがどれほど鮮烈なものであったか、感じられます。
ちなみにこの文字は三浦綾子さんの夫である光世さんによるもの。文学館の館長でもあった光世さんは綾子さんの死から15年経った昨年の秋、逝去されました。

私に三浦綾子さんの本を教えてくれ、文学館を訪れたこともある母は、「駅から遠いからタクシー使うといいよ」と言ってくれましたが、ケチな私は歩くことにしました。スマホ片手にパリーグTVをチラ見しながら…。

 

空が曇ってきた頃、ようやく到着。



こちらにも氷点の冒頭シーンの碑がありました。



静かな場所、静かな建物です。

三浦綾子さんの著書はすべて読みました。
その生涯も、強く心に刻まれています。
生い立ち、仕事、戦争、恋、闘病そして執筆。生涯に遺した数多くの作品から放たれる無数の光、あふれる愛、そして輝くいのち。無我夢中で読みあさりました。ページをめくるごと、闇に包まれていたはずの世界の扉が開き、未来へ続く道が見えました。

2階では『道ありき』展が開催されていました。
三浦綾子さんの青春時代を描いた自伝作品です。
幾度も闇に堕ちながら、人びとの愛、そして信仰が、彼女を救いました。
それは、綾子さん自身が敬虔なクリスチャンとして神を信じ、そして周囲に愛をもたらしていたからに違いありません。
出版のたび、光世さんに最初の一冊を送り続けていた綾子さんは、表紙の裏に夫へのメッセージを書き残していました。病弱な綾子さんのため、口述筆記をつとめるようになった光世さん。決して聞き直すことも書き誤ることもなく、三浦綾子作品は、夫婦ふたりで作り上げられた愛の結晶でもありました。これほどまでに清く輝く、美しい絆があったでしょうか。
こんな夫婦になりたいと、思春期の私は夢を見たものです。

展示の前で「涙が止まらないわ」と、目元をぬぐっていたひとりの婦人。「うん」と不器用そうにうなずきながら、ご主人が寄り添っていました。



外は空模様があやしくなっています。



見本林の散策へ。



『氷点』の辻口家は見本林のすぐそばにあり、子どもたちの遊び場であるという描写がありました。現代では少し想像しづらいほど、静かで、暗い森が続いています。曇り空がまた、不気味さを強調するような。



でもこんな道をランニングしたり、犬を散歩させたり、語らいながら歩いたり、それはそれで気持ちよさそう。



陽子は見本林をつっきったところにある美瑛川のほとりで、自殺をはかりました。
近くまでは行けませんでしたが、人気も鳥の声もなく、何かを連れていくような川音だけが響いていました。


旭川駅に戻り、次なる目的地へ。

 

旭川最古の喫茶店《ちろる》
新千歳空港駅から乗った快速エアポート内の雑誌に載っていました。
『氷点』の中にも出てくる喫茶店です。
“ちろる”の主人は詩人であった。その詩人らしい雰囲気が店にもただよっていた。少しこんではいたが、店の中はいかにも静かであった。夏枝は大きな棕櫚のかげのテーブルについた。


本格的なコーヒーです。ブラックで呑めました。



チーズケーキは濃厚かつさっぱりしていておいしかったです。

繁華街をブラブラして本やら夕食やらを買いこんでホテルに戻りました。
今日はゆっくり温泉に浸かり、部屋で夕食。



ホテルは繁華街にあるので、道すがら旭川ラーメンや魚介のおいしそうなお店の看板も目にしたのですが、何せケチケチ旅行なので、ちまたで噂のセイコーマート。かつ丼がおいしいと評判だそうですが、ちょっと重そうだったので豚丼にしました。でもコンビニで買ったとは思えないくらい、たれがおいしくて充実しています。噂になるのも納得です。
自転車のこぎ疲れと歩き疲れの足に休足時間を貼って、床に着きました。

明日は動物園です。

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