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おのづから言はぬを慕ふ人やあるとやすらふほどに年の暮れぬる(西行)
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さて、いよいよ手術当日である。

 

朝食は摂れない。が、早々に起こされる。手術着(浴衣)と前日に渡された靴下のようなものを履いてひたすら午後を待つ。

 

やっと看護師さんが呼びに来て、歩いて手術室へ。ドキドキしながら手術台へ上がると例のダンディな麻酔医が薬を入れ始めた。で、いつのまにやら意識が飛んだ。次に聞いたのは3時間後、「終わりましたよー」の声。ドラマと一緒やな、と朦朧とした頭で思った。

ベッドに乗せられたまま病室に戻ったが、まだ意識はぼんやりしている。ぼんやりしているのに、痛みだけは明確だ。

両鼻の奥までガーゼが詰め込まれているのだが、それを通して血が流れてくる。タオルが血まみれになり、綿花をもらって喧嘩をしたあとの子どもように丸めて詰めたがそれもすぐ汚してしまう。ああ、かみたい。鼻を思いきりかんで全部出してやりたい。が、今両の鼻は完全にふさがれている。ただしみ出てくるのを押さえるしかない、これがストレスである。

熱が出て苦しく、鼻と頭が割れるように痛い(実際、鼻の軟骨は割られたわけだが)。うおお、こんなに辛いとは思わなかった。「たいしたことないですよあっはっはー」などと楽観的に構えていたおとといまでの自分を殴ってやりたい。

付添いが母から夫に代わり、やがて面会時間も終わって帰っていったがそれすらもおぼろげである。

 

看護師さんが様子を見に来て、

「痛みますか?」「はい」「痛み止め出しましょうか。座薬ですけど」「・・・」

座薬を処方されるのは、風邪で高熱を出し姉に病院に連れていってもらったら座薬を出され、「お母さんにやってもらいや! 私は絶対いややで!」と主張する姉の剣幕に、座薬とは何たるかを知った12歳の冬以来であった。30代になってなお躊躇するのは、結局その時座薬を使用しなかったためである。

そして断ったことを、深夜になっていたく後悔する羽目になる。

痛みのせいでなかなか寝つけなかった。トイレは幸い部屋の目の前であったが、点滴ごと動かなければいけないため、これが面倒くさい。ベッドに戻って差し直した点滴のコードがきちんとはまっておらず、深夜の病棟に鳴り響くエラー音に看護師さんを走らせる、迷惑な患者であった。

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