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おのづから言はぬを慕ふ人やあるとやすらふほどに年の暮れぬる(西行)
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高く、遠く飛ぶことが勝利の条件に思えるスキージャンプには、実は飛型点というものがあります。
今まで目にしたジャンパーで最も美しいと思ったのは、長野五輪で活躍した船木選手の飛型でしたが、まさにモモンガのように両手を広げる葛西選手のスタイルも、なかなか美しいなあと感心しました。
37歳で挑んだ4年前のバンクーバー、個人でも団体でもメダルに届かず、進退も不安視されていた中、「アマンの野郎をぎゃふんと言わせないと!」と視線を4年後に向けていた晴れ晴れとした表情には驚かされましたが、まさか41歳で7度目のオリンピックにも出場するとは、想像もしていませんでした。しかも、若手を差し置いてダントツのメダル候補として。
その活躍は、日本よりも世界で「レジェンド」と称賛されているといいます。
長野後の板の長さやスーツのルール改正は、「日本イジメ」とも言われました。あれから16年。世界を席巻した日本スキージャンプ界は、すっかり欧米に後れを取ってしまいました。それはルール改正だけの問題ではなく、企業、国を含めた競技への消極的な取り組み姿勢にも原因があったのかもしれません。
逆風の中、第一線で奮闘してきた葛西選手。長い長い戦いに、ようやくスポットライトの当たる時がやってきました。
個人ラージヒル、2本目を終えた葛西選手のもとに駆け寄ってきた3人の若手選手たち。あの映像は、それまでのソチ五輪の中でもっとも感動した瞬間でした。ベテランらしからぬ陽気で若々しいキャラクター。背景が報道されるにつれ、尊敬の念以外に沸いてくるものはありません。「新たな目標ができた」と、笑顔の先はさらに4年後。彼は競技者としても、人間としてもまさにレジェンドです。
そして二番目に感動した瞬間は、ジャンプ団体で銅メダルを獲得したあとの葛西選手の涙でした。
所属チームで選手兼監督をつとめる彼は、もしかしたら個人の成績よりも、団体のほうに重きを置いていたかもしれません。長野以来、待ちわび続けられた団体のメダル、それはジャンプ界の未来を占う重要なファクターでもあったのです。
日の丸飛行隊の復活を導いた4人の選手。スランプに悩んだ清水選手。難病を抱えながら五輪にこぎつけた竹内選手、怪我をおして最後まで飛び続けた伊東選手。彼らの思いすべてを背負い、最後のジャンプに挑んだ葛西選手。個人でメダルを獲得した時の満面の笑顔ではなく涙声でインタビューに応じた葛西選手の姿に、日本ジャンプ界の長年の苦悩を知りました。
日本じゅうを感動に包んだ長野五輪、その中心にいたのは解説をつとめた原田雅彦さんでした。
今回のメダルを「長野以上の価値がある」と自画自賛した葛西選手、「彼こそがレジェンド」と称賛の言葉を惜しまなかった原田さん。どちらも、スキージャンプを語るうえでは欠かせない歴史の名場面として、永遠に語り継がれていくことでしょう。

そしてもうひとつ、かつて日本が勝ち得た栄光を追い続けた競技がノルディック複合。
あれはアルベールビルであったか、リレハンメルであったか。「キング・オブ・スキー」と名高い荻原健司さんが日の丸の旗を誇らかに掲げ、ゴールした瞬間は今でも憶えています。
しかしそれ以降、日本チームは苦境に立たされることになりました。
それが前半のジャンプの比重を下げた新ルールによるものなのか、競技界全体の問題なのかはわかりません。しかし日本人が後半のクロスカントリーで勝ち切るには、あまりにも欧米とはフィジカルの差がありました。
それを少しずつ、少しずつ埋めてきたこの20年。
競技が行われるのはオリンピックだけではありません。W杯では着実に、成績を残してきました。しかしメディアが注目するのは五輪のみ。渡部選手が、「真に価値があるのはW杯総合優勝、しかし五輪でメダルを取らないと意味がない」という趣旨の発言をしたのも、偽らざる本音でしょう。
フレンツェル選手との見ごたえあるデッドヒート。メダルの色を分けたのは、やはり最後の最後、フィジカルの差であったのかもしれません。しかし登り坂で一気に勝負に出た渡部選手の勇気には、「複合ニッポン」の復活ののろしを感じました。
そして、「複合ニッポン」を牽引してきた荻原健司さん。渡部選手が大ジャンプを見せた時、解説であることも忘れて歓喜した様子、銀メダル獲得後、「今の選手のほうが断然強い、自分たちはとうていかなわない。そういう世界で銀メダルを取れたことは本当にすごい」と手ばなしでの称賛。別番組で司会をつとめていた荻原次晴さんは、本番中にもかかわらず号泣しました。彼らの姿にもまた、ノルディック複合のこれまで立たされてきた苦境、選手やスタッフたちの苦悩を思い、20年ごしのオリンピックメダルにこめられた先人たちの悲痛な思いを強く感じました。
「キング・オブ・スキー」。日本選手がふたたびその称号を手にする日は、そう遠くないかもしれません。

オリンピックでメダルを手にすることによりおよぼす影響は、小さいものではありません。
もちろん、冬の屋外競技には天候やコースの条件など違いがあり、その場限りの結果で世界ランキングの成績が決まるわけではありません。
しかし、4年に一度の大きな大会。メディアの取り上げ方にも問題はありますが、やはりオリンピックのメダルには特別な意味があります。
スキージャンプ、そしてノルディック複合、子どもたちが彼らの活躍を目にし、オリンピックを夢見て競技を始めるかもしれません。
それこそがオリンピックの価値なのだと、つくづく思います。
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