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おのづから言はぬを慕ふ人やあるとやすらふほどに年の暮れぬる(西行)
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朝から心臓がバクバクしていました。

いや、私が緊張しても仕方ないのですが・・・。

 

バンクーバーオリンピック、男子フィギュア。

家事をすませて、テレビの前にスタンバイ。

 

いつもは目にすることのない、下位の選手にも、なかなかおもしろい演技をする人がたくさんいるのだなと感心しました。個性的な音楽や振付に、ここは楽しんで観ることができます。

 

さていよいよ小塚崇彦選手の登場。最初の4回転が決まった時には思わず拍手。練習でもバシバシ決めていたようなので、調子が上向きでしたね。アクセルの転倒は惜しまれますが、初の五輪で充分にその魅力を発揮し観客を沸かせた、素晴らしい演技だったと思います。

 

高い点数が出るとやきもきしながら、ついに最終グループ。そして画面の前で正座。

本番真っ最中に起こってしまった4回転論争ですが、飛ぶか飛ばないかということよりも大切なのは、この大きな舞台で、いかに「自分の納得できる演技をするか」ということではないかと感じます。飛ばないことに自分自身納得できているのなら、周りに流されて飛んでわだかまりの残る結果になってしまうよりも、よっぽど良いのではないでしょうか。しかしあの状況で「飛ばない」と明言することもまた、勇気のいることだと思います。観客にもジャッジにもパーフェクトな印象を与えないと、4回転という大技ひとつに呑まれてしまうわけですから。

で、世界王者ライサチェックは、見事に会場全体を呑みこんでしまいました。

完成度、美しさ、気迫、すべてにおいて完璧でした。天使のような、死神のような、まるで違う世界から降臨したかのような黒い輝きに虜にされてしまいました。どちらにしろ、連れていかれてもいいかも・・・と思うくらい・・・。

 

そんな演技のあとに織田信成選手。相当緊張していたのでしょう、表情も動きも、いつもよりずっと固くなっていて。それでもジャンプの流れるような動きはさすがです。大きなミスもなく、後半は落ち着きを取り戻して芸術点で巻き返して・・・と思っていたのですが・・・。

まさかのトラブル。

それでも、リンクに戻ってジャンプを決めた時には心を打たれました。当然、いつもより元気がなくても、ステップを踏んでチャップリンを演じきって、「すみません」と挨拶した姿には大きな拍手を送りたい。初めての五輪で7位入賞、小柄な体でも大きな外国人選手に劣ることなく、氷上で観客を魅せられることを証明してくれました。

 

そして高橋大輔選手。固唾をのんで見守ります。

4回転は転倒しましたが、その後は他のジャンプを軽々と決めて安心しました。ステップでのやわらかで豊かな表情、会場は高橋選手の描く「道」の世界に染まり、このリンクで滑った選手の中でいちばん輝いて見えた瞬間でした。最後はやはりスタミナ切れが心配でただ祈るのみ。この五輪に至るまでの苦難の道のりを凝縮させたような、選手の精神力漲るステップでした。1位は取れなかったけれど、日本男子フィギュアの歴史をその手で創りあげた金よりも輝く銅メダルです。

 

華麗で力強い、男子フィギュアのトリを飾るのは、皇帝プル様。

プルシェンコ選手のSPでの精彩を欠いた演技には少し驚きました。天才でも人間なのでしょう、ビッグマウスの裏には相当なプレッシャーがあったことと思います。なのにさらに自分自身を追い込むかのような4回転発言。口にしたからには責任を負わなくてはならない、アスリートとしてのプライドの高さがうかがえました。

このフリーも、かつての精密機械のような精度は失われていたように思います。地力を知るジャッジの眼も自然と厳しくなってしまうでしょう、それでもすべてのジャンプは成功度100%、不完全ながら着地に持っていく技術力のおそろしい高さ。総合点においてはライサチェックに及びませんでしたが、ブランクとそれをやすやすと飛び越える精神力を考えると「スゴイ」のひとことです。

 

表彰台での高橋選手の眼に浮かんだ涙にもらい泣き。

 

開幕寸前の悲報から、少し悲しい雰囲気で始まったバンクーバーオリンピック。上村愛子選手のモーグル4位入賞から始まって、日本人選手の活躍には毎日心を熱くさせてもらっています。ノルディック複合の小林選手のユニークなキャラクターや、競技以外のところで注目されたスノーボードHPや、もちろんスピードスケートも。日本がまだその層を超えられない、外国人選手にも圧巻です。スノボ金メダルのホワイト選手に滑りには口ポカーンでした。陸上100mボルト選手以来の衝撃でした。

まだまだ、これからも興奮させられるような五輪が続くことを願います。

 

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