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おのづから言はぬを慕ふ人やあるとやすらふほどに年の暮れぬる(西行)
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雪原に横たわる、真っ赤な女。

美しい色のコントラストが、タイトルから想起されるおどろおどろしさとは対照的。

この風景のように叙情的な展開が待っているのだろう。

が。

そんな期待はあっという間に粉砕される。

直後、目を疑うようなことが起きるのだ。

あっけに取られている間に、話は進む。・・・

長野の田舎町の交番で働く光太郎。妾宅に居付いている父親を除く家族構成は、母親と、認知症の祖父と、ダメ男の双子の兄・光と、父親の捨てた牧場を営む姉夫婦。

そこに突然やってきたならず者のカップル。自分の蒔いた種で彼らとかかわりを持ってしまった光。行き場のない思いを抱える兄のことはつゆ知らず、光太郎は日々同じ生活を続ける。職場のネズミ退治に躍起になったり、彼女との結婚話が進展したり。

これといった色彩のない、田舎町。その路地を、光太郎は自転車で回り続ける。なにもかもが平凡で、静かで、筒抜けだ。光がカップルを祖父の古い家に住まわせていることも。父親が愛人のちょっと足りない娘を妊娠させたことも。売春をさせられているその娘を町の誰が買っているかということも。

異端に見えるものすべてがこの町では、普通。

普通に、まじめに生きてきたはずの光太郎、だが、彼が普通であろうとすればするほど、生まれてこのかた生きてきたこの町になじんでしまった部分が小さな綻びをもたらし、やがてそれが大きな矛盾と化していく。己の矛盾に気づいた彼は、精神を蝕まれていく。

そして「事件」は起きる。

その「事件」すら、一瞬の色彩を放ってすぐかき消える。この町では、それが「普通」。

背筋がうすら寒くなるような展開、しかしあくまで感情を交えずシュールに描ききったこの監督は、ばかのハコ船』という作品も作っていますが、どうやらこういう独特の世界観を持った方のようです。好きか嫌いか、ひとそれぞれだとは思いますが、私はどうやら後者のようですね。

とりあえず、キム兄が主要人物のひとりと知っていたら観なかったと思います。

ですが、三浦友和のダメ父は必見です。

評価:★★★☆☆

 

~ヤスオーのシネマ坊主<第2部>~ 

 僕はこの監督の「ばかのハコ船」という作品を昔観たのですが、自分なりの表現手法を持っていることはわかるものの、映画全体に漂うもっちゃりした雰囲気や登場人物の会話の聞きとりずらさがいらちの僕には合わなくて、もうこの人の作品は自分には合わないから観ないでおこうと決めていました。今回あまりにも暇だったのでついまたこの人の映画を観てしまったのですが、もっちゃりした雰囲気やボソボソ会話は変わっていないものの、さすが「リンダリンダリンダ」という商業ベースにのっている作品を撮った後だけあって、観客側のことも少しは意識するようになったのか、ストーリーの面白さや展開の起伏は「ばかのハコ船」よりは圧倒的にマシで、集中力を切らさず最後まで観れました。「ばかのハコ船」は出来うんぬん以前に眠くて仕方がなかったですから。

 ただ、この人は小市民のダメぶりを描くのが非常に上手なんですが、今回は世間の自分への評価がある程度高くなっているのを知ってしまったのか、「ばかのハコ船」と比べたらちょっと監督の狙いが鼻につきますね。ここまでねちねちと人間のどうしようもない部分を表現しなくてもいいと思うんですけどね。オープニングの、倒れている女をガキが発見し、女の身体を胸、下半身と順序よくまさぐるところと、三浦友和が自分が孕ました(と思われる)うすのろの女のお腹にミカンをポコポコぶつけるシーンは僕は大好きなのですが、この二つで十分です。ちょっと他にもこういうシーンが多すぎて食傷気味になりましたね。

 田舎独特の閉塞感の描き方に関しては素晴らしかったです。僕は出張が多い仕事なんでこの映画のような中途半端な田舎町によく行くのですが、家の中も、庭先も、商店街も、喫茶店も、住民の様子も、本当にこの映画のとおりです。何ともいえないしんどい雰囲気が町全体に漂っています。田舎の生活を爽やかに描いた映画の方が多いですが、あれは全部ウソです。僕は出張に行くといつも軽い鬱状態になって帰って来ますから。しんどいからといってこの映画のような喫茶店に入っても、よけい身体がだるくなってエネルギーを吸い取られるので、いったん都心に戻ってからチェーン店の喫茶店に入るようにしています。僕は絶対に田舎には住みたくないと考えている人間なんですが、この映画は僕の考えが間違っていないことを証明してくれています。

 ただ、秀逸なタイトルで「誰が、いつ、どういう状況で拳銃を乱射するのか」と煽っているのですから、最後まで誰も乱射してほしくなかったですね。この映画は最後何かがどえらい起こるかもしれないとこっちの興味を引いてるのに、あのラストだったら、怒る人もいるでしょう。それならいっそのこと含みだけもたせて何もない方がいいような気もします。数人キレて拳銃を乱射しそうな登場人物はいますが、前半の光太郎のまったりした一見順風満帆な生活ぶりと、偶発的なトラブルにより追い込まれた兄の光の生活ぶりから、だいたいその後のストーリー展開とラストで乱射する人間も読めますしね。

評価(★×10で満点):★★★★

助演男優賞候補…三浦友和

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