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おのづから言はぬを慕ふ人やあるとやすらふほどに年の暮れぬる(西行)
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神武東征から始まる物語の主人公は、神様から人間へ。

愛と憎しみが交錯する、生々しい展開を見せます。

 

奈良には、今でも佐保と名を残す地名がありますが、

サオビコ・サオビメの物語は、まるで昼ドラ。

 

同母(イロ)の兄妹であるサオビコとサオビメ。

サオビメは垂仁天皇の皇后となりますが、ある日サオビコはその妹に尋ねます。

「夫と兄とは、いづれか愛しき」

本人を前にして、ズルイ訊き方ですね。

お姫さま育ちのサオビメは、おっとりしていたのでしょう。思わず「兄上」と答えてしまいます。

「これで天皇を刺し、ふたりで天下を奪ろう」と、兄に刀を託されたサオビメ。

一度は果たそうとするも、やはり夫への愛は断ち切れず、逆に天皇に謀反を知られることに。

ところがサオビメは、「その兄にえ忍へず」宮を脱走します。

サオビコは(文面では)妹を利用しているだけだし、

天皇は二度まで自分を裏切った妻を「なほその后を愛しと思ふにえ忍へず」許そうとしたのに、

結局兄に殉じてその命を捨ててしまったサオビメ。

古代の支配階級の思想だとか、血の絆とか、いろいろ理由づけはできると思いますが、

なぜサオビメは悲劇の結末を選んだのか。

本来なら、天皇である夫に守られて愛の苦しみも葛藤も知らずに生きてこられたはずなのに、

陣中で産み落とした子を夫へ渡し、育児教育や後妻の推薦までし、

あくまで兄のそばに立ち続けたサオビメは、もはや手弱女ではありません。

箱入り娘で人の気持ちを拒めずに、不用意なひとことを発してしまったお姫さまは、

戦場で今までになかった激しさと強さを身につけます。

人生を狂わせてしまった、報われぬ愛。

しかしそれがサオビメのアイデンティティを確立させたきっかけであったなら、

こんなに皮肉な運命はないでしょう。

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