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おのづから言はぬを慕ふ人やあるとやすらふほどに年の暮れぬる(西行)
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題名のない子守唄

 

前知識のないまま鑑賞してしまったため、いきなりショッキングな場面から始まった時にはタイトルとのあまりのギャップに、違う番組を再生してしまったのかと思ったほどでした。

アダケル家に雇われた家政婦、イレーナ。しかし雇い主は知らない、彼女が前の家政婦と仲良くなって家の鍵を盗み侵入を試みたことを。そして家政婦を階段から突き落とし、まんまと後釜にもぐりこんだことを。初日怪我をさせてしまったことで嫌われたひとり娘のテアを巧みに手なずけ、生まれつき防衛本能の弱い彼女を荒い方法で鍛えようとしたことを。そして、隠された過去のことを。

極端に説明の少ない作品です。誰も何も語ることのないまま物語は展開し、観ている側はイレーナに起こるフラッシュバックの映像で幾つもの謎を推測しなければなりません。しかし、不思議と第三者の視点ではなく、いつの間にか素性の知れぬはずのイレーナの感情に寄り添い、彼女とともにはらはらしながらテアと級友の喧嘩の行く末を見守ったり、切ない思いとともにイチゴをついばんだり、そしてラストが近づくにつれあきらかになっていくあまりにも残酷すぎる過去のできごとに、現在の彼女が取ったひとつひとつの行動に隠された動機を知り胸をかきまわされる痛みをそこではじめて共有するのです。

謎解きの伏線らしい伏線もなく、むしろミスリードのような描写も散見されます。それが監督の狙いなのかどうかはわかりませんが、あとで知って鼻につくような置き石ではなく、すんなりと納得させられる自然な溶け込み方でした。あとで知ったのですが、ジュゼッペ・トルナトーレ監督は『ニューシネマパラダイス』や『海の上のピアニスト』など、観たことはないけれど私でも名前を知っているような名作を生みだした巨匠だとか。流石の技量といったところでしょうか。

素晴らしかったのは主役を演じた女優さんです。過去と現在、まったく異質の女性を演じていますが、別人に思えるほどの変化でした。過酷な国家事情、人間としての尊厳をこれ以上ないほどに蹂躙されてもなお、その心は失われない。土に根を張り、鉢の中で育ち続ける。ゴミ置き場に捨て置いた過去とともに削がれた表情の隙間からこぼれおちる母の愛。ドラマ『Mother』を思い起こすラストシーン。

心は枯れない。いつどんな時どんな状況であっても。

評価:★★★★☆

~ヤスオーのシネマ坊主<第2部>~

  観ている間は意味がわからない所や疑問に思う所が多々あって、観終わった後しばらく考えてやっと疑問点が少しずつ繋がるように解決していき、そのなかで感動のようなものは確かにある映画です。しかしこれはハードな内容ですね。僕はこの映画をテンションの低い時に観てしまって、最初の1分観て映画のチョイスを間違えたと思いました。その後もエロと暴力のオンパレードです。タイトルからはもうちょっと叙情的な映画を想像していたのですが、全然違いました。しかしたぶん過激なシーンを抑えていたらこの映画は凡作になっていただろうなと思いますから、難しいところですね。

 ただ、この映画は絶対女性が観るべき映画です。僕が女性なら、もうちょっと主人公に共感ができたと思いますし。主人公のテオに対する執着はまあ僕も何となく気持ちは分かるんですがやはり女性の方が理解できるでしょう。テオをぐるぐる巻きにして何回も突き倒すシーンなんかは僕にはただの虐待にしか見えず、子どもを手なづけたりしているのは昔自分をむちゃくちゃにした男の家庭を崩壊させるための芝居で、実はテオなんか全然好きじゃないから苛めていたという底の浅い解釈をしていたので、テオが男の子をボコボコにしているシーンはすごく気分が良かったですね。

 ただ、主人公が自分の前の家政婦を階段から落とすところがいつまでも引っかかって、主人公の目的が分かろうが主人公が突き飛ばした家政婦に償いをしようが、「それでもアレはあかんやろ~」という思いは消えず、主人公のことは最後までイマイチ好きになれませんでした。しかしラストから考えるとそんな人間でも救いはあるというふうに読みとることもできるし、なかなか難しいですね。

 ちなみにラストシーンは良いとしか言いようがないぐらい良いです。観終わって1週間以上経った今でも鮮明にその画面が浮かびます。さすが大御所の監督ですね。あと、主人公がゴミの山を掘って恋人を探す映像と主人公と恋人がイチャついている映像がちょいちょいフラッシュバックで挟まれているんですが、このへんの演出も実に上手でした。最後掘り返して引きの画になるところでうわ~っってなりますからね。ストーリー、演出、映像、音楽など色々含めて、誰が観ても、出来の悪い映画とは言わないでしょうね。

  評価(★×10で満点)★★★★★★★★

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ヤスオーと古都の片隅で暮らしています。プロ野球と連ドラ視聴の日々さまざま。
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