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おのづから言はぬを慕ふ人やあるとやすらふほどに年の暮れぬる(西行)
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音大を目指す受験生・ワオ、ピアノの天才少女・うた。年齢も才能も違うふたりが音楽を通して絆を深めていく物語。

ピアノといえば、私も昔、歯型がつかない程度にかじっていました。

小学校に入る時、親に「お姉ちゃんがやってたピアノとお兄ちゃんがやってる水泳、どっち習う?」と言われて、「水泳」を選んだことをあとになってどれだけ悔んだことか。成長期に泳ぎこんだバタフライで広くなった肩なぞ、何の役にも立たないですからね。「ピアノ向き」と言われた指は日の目を見ることはありませんでした(実は長く見えるだけでそんなに長くないのだが)。

とはいえ、仮にピアノを習っていたとしても、将来音大を目指すとか、まして天才と謳われるといったことは絶対になかったと言い切れます。

音楽センスのある人には、本当にあこがれます。

音楽だけでなく、絵画でも陶芸でもスポーツでも、とにかく才能のある人すべてに。

才能があるということはそれだけ乗り越えるべき壁も増えるわけで、天才たるゆえの苦悩というのは、たとえばイチロー選手を観ていてもよくわかることなので、ある意味凡人でよかったかもと思うことはあるのですが。

凡人であれば、ワオは何も考えずに八百屋を継いでいたに違いない。中途半端にピアノが上手いばっかりに、音大を目指し壁にぶつかり、入学してからも悩み続けることになる。

突出した才能の持ち主であれば、もちろん苦しみはそれ以上。幼い頃から周囲にもてはやされ、親には弾くことを強要されるうた。13歳ともなれば反抗心は産まれて当然。レッスンをさぼってワオの部屋に入り浸る。

中学生と交流する松山ケンイチ、といえば『セクシーボイスアンドロボ』を思い出します。あれも性別も年齢も超えた奇妙な友情だった。こちらも、親友とも、兄妹とも言い難い不思議な絆が、ふたりの間に生まれます。うたから借りた大切なぬいぐるみを添えたピアノで、念願の音大に首席合格できたワオ。彼には好きだった人もいて、新しい恋人もでき、学生らしい青春を謳歌していくのですが、うたはそれが面白くない。イケメンの先輩に告白され「つきあうってどういうことかわからない」と断っても、好きな人には眠っている間にこっそりキスできる。小さな恋は生まれていたけれど、音楽というもっと大きな道の前には、その想いさえいつの間にか消え去ってしまう。聴覚を失ったうたが、亡くなった父のピアノを前に弾くことをためらった時、迷わずその鍵盤を叩いたのがワオ。聴こえないはずの思い出の曲が彼の手によって弾かれだした時、うたは確かにそのメロディー聴いた。うたにとってワオは、兄であり、親友であり、恋人であり、また父でもあった。

普通の青年役の松ケンを観るのは新鮮でした。茶髪だし。個性的な演技ばかり観ていたので。でもこういうどこにでもいそうな学生も、無理なくハマってしまうのはやはりこれまた類まれなる才能ですね。

「神童」である成海璃子。年齢より大人っぽい外見だけに、学校の場面では本当に浮いてしまっていましたが、ピアノの場面は本当に弾いていて努力したんだなと思います。ちょっとした時に見せるあどけない笑顔が良かったです。

評価:★★★☆☆

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ヤスオーと古都の片隅で暮らしています。プロ野球と連ドラ視聴の日々さまざま。
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