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おのづから言はぬを慕ふ人やあるとやすらふほどに年の暮れぬる(西行)
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『武士の一分』

藤沢周平の作品はほとんど読んだことがなくて、この原作ももちろん未読です。

山田洋二監督が作った三部作の前二本『たそがれ清兵衛』『隠し剣鬼の爪』も観ていなくて、

なぜこれだけ観たのかというと、主役がキムタクで話題になったからという安易な理由なのですが・・・。

最近、アイドル「キムタク」から脱皮をはかっているように見える木村拓哉ですが、

この作品も、新たな境地を開いたのではないでしょうか。

以前テレビドラマで演じた堀部安兵衛は本当にひどくて、三分で観るのをやめてしまったのですが、

この映画での下級武士役は、良かったです。

なで肩が現代から見る武士のイメージとしては貧相ですが、

幕末の写真でも、サムライはみんな小兵ですしね。

歩き方や台詞まわしや殺陣などの軽さも、逆に親しみを持てました。

いずれの時代にしろ、仕事のミスは程度の違いはあっても責めを追わねばならず、

上下関係の厳しさで理不尽な目にもあってしまいます。

現代では泣き寝入りするしかないサラリーマンですが、

武士には武士の譲れぬ「一分」がある。

それでも心は同じ人間。妻を愛する心は、変わらない大切な思いなのです。

妻役の檀れいは、「金麦」のCMのせいでイメージが良くなかったのですが、

清冽で美しい妻を好演していました。

中間役の笹野高史も、欠かせない存在感です。

山田監督独特の演出も、三村家のたたずまいも、作品のつつましやかな雰囲気を彩っていました。

そして、音楽がカッコイイ。

この叙情豊かな尺八を演奏しているのは誰なんだろうと気になっていたら、

しっかりエンドクレジットに名前が出ていました。

「藤原道山」--納得!

評価:★★★★☆

 

『悪い男』

『サマリア』のキム・ギドク監督の作品です。

『サマリア』でも援助交際をする少女たちを描きましたが、こちらの舞台も娼婦街。

ヤクザのハンギは、ある日街で見かけた女子大生・ソナにひと目惚れしますが冷たくあしらわれ、

彼女を罠にはめて売春宿に売り飛ばしてしまいます。

夜な夜なソナが犯される姿をマジックミラー越しに見つめるハンギ。

自分の境遇がハンギの画策と知って憎悪を募らせるソナ。

なんとも、解釈に困る作品です。

これをラブストーリーと呼んでいいものか。そんな俗的なコトバで語られるものなのか。

子分をかばって冤罪で刑務所に入るような男気のあるハンギは、

劇中ソナに対してだけは「悪い男」に徹しており、

ただひたすらに彼女を傷つけ堕としめてその姿を見守ります。

唯一、酔った挙句ソナを部屋に連れこんでベッドに横たわったものの、

手を握りそっとくちづけるだけのハンギの優しいまなざしが、

救いといえば救いではありますが、

ハンギの行動は倫理や道徳ではかれるようなものでは到底なく、

またその男によって狂わされていくソナも、

理解を超えた人格へと変貌していくのです。

愛にはいろんなかたちがあるとはいうけれど、

独占欲どころか愛する女を娼婦にするという行動は、

相手を傷つけられるのも貶めることができるのもみずからの手によってのみと、

定義させたいゆえでしょうか。

それが彼なりの愛の独占なのでしょうか。

女性にとっては不快な表現が続くため、評判は決して芳しくないのですが、

語らない主人公、映像の色彩美は監督ならでは。

部屋の鏡がマジックミラーとわかる場面は、とても良かったです。

でも、主人公は最後まで語らないほうがよかったかもしれませんね。

あとラストの落とし方も、監督独特です。

ただでさえ共感できないのに、ますます混乱してしまいました・・・。

評価:★★★★(4.2)

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