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ふたたび、中毒患者のキム・ギドク。
しかし今回、ギ毒は薄め。
山間の湖に浮かぶ寺。壮大な自然を背景に、季節はうつり、人はうつろう。
春--花は咲き、陽ざしは湖面をあかるく照らす。和尚とともに寺で暮らす無邪気な少年。しかし幼子の無邪気さは時に残酷。小動物に石を縛りつける行為を和尚は厳しく戒める。少年は命を殺めた業の重さに涙を流す。
夏--眩しい夏の太陽と激しい雨。病気の治療のため寺にやってきた少女と青年は恋に落ちる。和尚は「欲望は執着を生み、そして殺意を生む」と諭すが、彼は聞き入れることができず、少女を追って寺を飛び出してしまう。
秋--燃える紅葉が湖面を揺らす。老境を迎えた和尚のもとに、男が戻ってくる。彼は妻を殺し指名手配中だった。凶器のナイフを手放せず激情を抑えきれないかつての弟子を和尚は厳しくもあたたかく見守り、追ってきた刑事の前で彼に般若心経を彫らせる。彼らを見送ったあと、和尚はひとり小舟に乗り、火を放つ。
冬--荒涼たる雪に閉ざされ、凍てついた湖の上を歩くひとりの男。和尚の残した衣服と蛇に迎え入れられた寺で、彼は氷の仏を彫り、かつての師の遺骨をおさめ、氷上で鍛練に励む。ある日寺に顔を隠した女が子どもを抱えてやってくる。女は顔を明かさぬまま、子どもを残し湖に沈んで命を落とす。
そして、春--成長した少年と微笑み合う男。花は咲き、陽ざしは湖面をあかるく照らす--。
水、光、霧、緑、紅葉、氷など、風景画のような自然美。少ない台詞の中で交わされる心と心。ギドクの持ち味が存分にいかされた叙情あふれる作品となっています。
またギドクの映画によくある暗喩的な表現も多く、いっそう作品の深みを増しています。
湖の岸辺、まるで外界との結界のように忽然とある扉。お堂の中にもそれはあります。ただ、褥と祭壇を分かつように置かれている扉の両脇は開いていて、扉を使わなくても出入りはできます。春の朝、目を覚ました少年が開いたその扉は、夏、少女の褥へもぐりこむ青年にとって障壁ではなくなってしまいます。
なぜ狭いお堂の中に扉が必要だったのか。開けること、閉めること。そのくり返し。岸辺へ往復する小舟もくり返し。水を掻く棹もまた、同じ動きのくり返し。そして四季もまた、年をめぐらせくり返し。
自然と同じように、くり返すことには尊い意義があるのかもしれません。
生ける者の命を奪うのと同じように、守るべき約定を破ることは深い業を背負うこと。男は業という重石を背負い、一生を湖面の寺で償いに捧げることを誓うのです。
季節の好みでいえば、私は秋が好きです。そしてこの作品も、秋の場面がいちばん好きです。
他作品で使われたモチーフも多々見られました。山あいの自然(『サマリア』)、顔を隠した女(『絶対の愛』)、神通力(『うつせみ』)、など。しかしそれらよりは毒も少ないし、初心者にはオススメかもしれません。
それにしても、和尚がいきなり猫のしっぽを使って般若心経を書きだしたのには笑ってしまいました。色をつける時にはちゃんと筆を使っていたのに、何故・・・。これも暗喩かと考えましたが、答えは見つかりませんでした。
それにしても、毎度のことながら、彼は女を何だと思っているのか・・・。
評価:★★★★☆(3.8)