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おのづから言はぬを慕ふ人やあるとやすらふほどに年の暮れぬる(西行)
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『この世界の片隅に』の余韻も冷めやらぬまま、本屋で衝動買いしてしまいました。

すっかりハマってしまった、こうのワールド。

 

長い道 (双葉文庫 こ 18-4 名作シリーズ)

『長い道』

カイショなしの荘介と、ちょっと天然の道の、おかしな夫婦の物語。

なにしろこのふたり、父親同士が酔っ払って取り付けた縁談で結婚したのです。

女好きで仕事も長続きしない荘介にとって、道はただの家政婦。でも道は文句ひとつ言わずかいがいしく働き、いつもにこにこしています。

なのに荘介は、そんな良妻を質屋に入れようとしたり、道のバイト先の店長が道を海に誘ったと知るや金を巻き上げに行ったり、いや本当にアクドイ男です。これに較べたらウチの宿六のほうが1000倍まし・・・。

が、そんなダメ男も、風邪をひいた道の手を夜通し握ってあげたり、好きな甘食を買ってきたり、冷たい手をあたためてあげたり、ちょっとした時にやさしさを垣間見せるので、なんだか憎めません。

また道も、ただのデキた嫁ではありません。

実は以前、結婚を考えるくらいに好きだった人がいて、彼が今荘介と同じ町に住んでいると知り、どこかで会えるかもしれないとかすかな期待を抱いて、嫁いできたのです。

荘介が道のことを「1°たりとも勃つかあ!」と表現するのと同じくらいに、道もまた、荘介ではない別のひとへ愛を注いでいたのです。

それに気づいた瞬間、荘介も読んでいる私も、淋しくなります。知らない間に道は心のそばに寄り添っていたから。それを愛と呼ぶのかどうかはわからない、だけどきっと今まで一緒に歩いてきた道そのものが、「シアワセ」だったのだ、と。

バラバラの方向を向いていた夫婦は、肩を並べて、ふたりの場所へと帰ります。

どんなこうの作品にも共通している、「シアワセ」がきっと待っているに違いないラストには、心がぽかぽかします。

 

ぴっぴら帳 1 (双葉文庫 こ 18-2 名作シリーズ)

『ぴっぴら帳』

私は、インコを買ったことがありません。

正確には、幼い頃は家にインコがいたのですが、私が小児ぜんそくになったため、誰かの家にもらわれていったのです。その数年後にはミーコが家にやってきているのだが・・・なぜ鳥はダメで猫は良かったのか、今だに謎です。

だから、インコの可愛さというのが、よくわかりません。

友達の家のインコは可愛かったけど、心の底では「ウチの猫のほうが可愛いわい」と思っていました。これはどんな飼い主でも同じ感情を抱くと思いますし、インコを飼い続けていれば、「この世でインコほど可愛いものはないわい」と思っていたに違いないのです。

この作品は、とどのつまり作者の「飼い主バカの自己満足」なのです。

私だってミーコやマイのことを4コマにしようと思えば、何百ページだって描けますし。描くだけなら・・・。

だから可愛い顔も間抜けな行動も、たぶんこう思っているんだろうなというアテレコも、インコの魅力を知らなくとも同じ「飼い主バカ」なら、「そうそうそう!」と共感できるはず。

どこかすっとぼけた登場人物、ノスタルジックな商店街の中、ひとさじぴりっと効いているのがそういうインコたちのリアルな描写。顔かたちまでが若干リアルです。でも不思議と、こうの史代のほんわか世界を逸脱していない。これも、作者のインコ愛ゆえでしょうか。

読み終えてみれば、「インコもいいかもなあ・・・」と考えてしまいます。

 

こうの史代さんを読めば読むほど、また、ウラ話を知れば知るほど、魅力が増していきます。

デビュー前は谷川史子さんのアシスタントをしていたとか。谷川さんは、私が『りぼん』愛読者時代、もっとも好きだった漫画家さんです。少女漫画らしからぬトーンの少ない絵柄、ちょっと天然ぽい主人公、でも丁寧な心象風景、今思えば、こうのさんとの共通点がたくさんありますね。谷川さんもやはり『りぼん』を超えて活躍していらっしゃるようですが。

まだまだ、集めてしまいそうです・・・。

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