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おのづから言はぬを慕ふ人やあるとやすらふほどに年の暮れぬる(西行)
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プロ野球をまじめに観るようになったはここ数年ですから、

この稲葉篤紀という選手を知るようになったのも、ここ数年なわけで。

はじめてまともに観たのが優勝した年、

新庄やひちょりと一緒に外野で膝ついてグラブかぶってた姿です。

フツーにノリのいい選手かと思ってました。

実はもとヤクルトで、しかも大リーグを希望したにもかかわらず行けなくて、日ハムに拾ってもらった・・・という苦労話を聞いて驚きました。

で、最近、この本を読んで、ますます稲葉という選手の陰を知ることになりました。

ドラゴンズのおひざ元に生まれて、幼い頃から野球少年。

父親がコーチをしていたチームでしごかれ、

通い詰めたバッティングセンターでは何度かイチローとすれ違い、

高3の夏にはそのイチローに敗れて甲子園に行けず、

大学の下積みを経てプロ入り。

と、これだけならごくありふれた略歴なのでしょうが、

目をひいたのが、小6時のいじめ体験でした。

プロ入りするくらいですから子どもの頃から運動神経は飛びぬけていたでしょう。

私の認識では、運動ができる子ってたいてい活発でクラスの中心で人気者で、

いじめなんて無縁の存在だと思っていたのですが。

ささいなことからクラス全員に無視され、

修学旅行では親にねだって買ってもらったジャージをいじめっ子に横取りされ、

媚びるまでに卑屈になってただ時期が過ぎ去るのを待つことしかできなかった一年間。

大切な思い出になるはずの日々を奪われた稲葉少年の胸中を思うと、胸が痛みます。

が、つらいはずの記憶は、恨むわけでも憎むわけでもなく、淡々とした文章で書かれています。

顔の痣にもサラリと触れる、達観にも似た屈託のなさ。

自分と向き合う作業は、大人になればなるほどしんどいことだと思います。

でも稲葉選手はそれから逃げずにキチンと自分という存在を客観視できる強さを身につけています。

一生懸命、自分の弱さと向き合って考えて努力して、

一生懸命、自分の人生を生きてきたひとなのだ、と、 

しみじみ思いました。

自分を語らず人を寄せつけないのもヒーローの特性ですが、

こんな、親しみの持てる、こちらにも笑顔が自然と生まれてくる、

やさしさを持ったヒーローも、アリですね。

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ヤスオーと古都の片隅で暮らしています。プロ野球と連ドラ視聴の日々さまざま。
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