この社会は、カネのある者だけが得をするようにできている。もちろん、カネを得るためにいろんな努力をして、才をめぐらせて、道を間違えぬよう注意深く生きてきたからこその結果なのかもしれない。だが、いったん道を間違えてしまうと、もう二度と後戻りできないシステムになっている。悔いても時間は戻らない。罪を犯した過去も、顔の傷も消すことはできない。
暴力行為により300時間の社会奉仕活動を命じられた青年ロビー。彼の子を出産した恋人とともに新たな人生を生きようと決意するも、社会はそれを認めてくれない。仕事もなく、被害者家族からは「クズ」と罵られ、家族ぐるみで敵対している恋人の父親からは邪魔者は追い出すとばかりに「金をやるからロンドンへ行け」と蔑まれる。
逃れようとしても逃れられない犯罪者のレッテルと、ともすればひきこまれかける暴力の渦。ロビーを引き戻してくれたのは、奉仕活動の指導者でウイスキー愛好家のハリーでした。
ハリーの導きにより、ウイスキーと出会い、そして光の降り注ぐ道へ歩むきっかけを得たロビー。そして一発大逆転をかけ、ロビーとその仲間は行動を起こします。
舞台はイギリス。国の情勢にはくわしくありませんが、日本も大差ありません。カネはカネのある場所にばかり寄り集まり、ワーキングプアだの格差社会だの消費増税だの、全国民の幸福に満たされた理想とはほど遠い国家となりつつあります。
幻のウイスキーに1.5億円も投げだしたのは、味の違いもわからぬアメリカ人。ロビーたちとはまるで住む世界の違う人間です。人生の「勝ち組」を「負け組」が出し抜く展開は、本来ならば痛快なはずなのですが、そこは日本人との意識の差なのでしょうか。これから生まれ変わって妻子を守っていこうという人間が、カネを得るため悪いことに手を染めてもいいのかな? とどうしてもひっかかってしまいました。
それでも、そのひっかかりが作品の質を損なっているわけではありません。自分ひとりの力ではどうすることもできない社会の仕組みに絶望するロビーの憂い。ハリーの慈愛。「負け組」たちのユーモアにあふれた会話。ドキドキハラハラの一大ミッション。「ああーーーっ!」と思わず声をあげてしまったまさかの決定的瞬間。人生の分岐点へ背中を押してくれた輝く友情。
「天使の分け前」とは、ウイスキーが樽の中で熟成される間、一年間で蒸発する約2%の減少分のこと。2%といえど、量が減ってしまうのは損だなあと思うところを、天使の分け前と表現するなんてとても素敵だと思いました。
人間も、日々の中でいろいろなものを失っていきます。時を重ねれば重ねるほど、得るものよりも失ったものを数えることが多くなりました。
損だなあ、と思うのか、天使の分け前、と思うのか。
そこで人生を照らす光の量も変わってくるのだろうと思います。
人生のわかれ道、ゆく先を決めたロビーの未来にもきっと、光があふれていることでしょう。
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