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おのづから言はぬを慕ふ人やあるとやすらふほどに年の暮れぬる(西行)
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我が家には、もう1匹忘れられない猫がいます。

黒猫のクロちゃんです。

クロの登場は突然でした。

ある日学校から帰宅すると、玄関先で見慣れぬ小さな黒猫がにゃあにゃあ鳴いているのです。

野良猫のくせに、睨みもせず、威嚇もせず、逃げもせず、

このチビクロは足下へすり寄ってきたのです。

 

クロちゃんは、おそらくボス黒と、雉猫かどてマダムとの娘だったのでしょう。

光に透けると、おでこのあたりに縞々がありました。

脇の下が白いのも、愛嬌でした。

 

餌づけしている野良猫のことを、外猫といいます。

最初に餌をあげたのは、姉というのが通説になっています。

でも、もしかしたら私だったかもしれない・・・。

家で飼うのは、子ども3人、そのうえデブ猫と悪ガキ猫がいる手狭な我が家では無理でした。

避妊手術はさせましたが、傷がふさぐまで家で療養させ、治るとまた外に放り出しました。

 

半野良のクロちゃんは、猫にあるまじき人なつこさを持っていましたが、

それでも野良の習性は忘れていなかったのか、よく狩ってきた獲物をベランダに持ってきました。

窓を開けると、ゴ○やら蜂やらが転がっていて、「ぎょえー!」となったこともしばしば。

 

人なつこいだけあって、うちの猫たちとは仲良しでした。

避妊手術や風邪で家に入れた時や、2匹がたまに脱走した時は、

しじゅう一緒に遊んでいて、とくにミーコとはラブラブぶりを見せつけていました。

 

餌を与えられていたせいか、避妊手術で子どもぷりが抜けなかったせいか、

厳しい野良世界では落ちこぼれでした。

幅をきかせたドラ猫たちが引退し、

かわって闊歩するようになったどてジュニアや、

ペルシャ&雉のジュニア(どこからどうみても・・・)たちに、

小さなクロはいじめられて、いつも傷を負い、耳の先は欠けていました。

餌も横取りされているようで、あげてから食べ終わるまでそばで見張るようにしたのですが、

少しでも物音がすると、かわいそうにビクビクおびえるのです。

野良猫たちも巧妙で、少しでも目をはなすとクロの餌はなくなってしまうのでした。

そのうち、クロはなかば神経を病み、突然私たちの前から姿を消してしまったのです。

あちこち探しに行きましたが、結局見つかりませんでした。

 

あれから8年近くになります。

どこでどうしているのか、最後のほうのクロを思い出すと胸が痛みます。

 

餌をやるべきではなかった。

外猫は、飼い主が責任を放棄した飼い猫です。

飼うのならば、きちんとしつけをしなければならないし、

なにか面倒を起こした時は、解決しなければなりません。

でも私たちはそれをしませんでした。

クロはあくまで野良猫で、なついてかわいいから餌をやっているだけの関係でした。

近所の人たちには、排泄や庭荒らしでかなり迷惑をかけ、陰で批判を浴びていたようです。

一時の哀れみで餌をあげたこと、今では深く反省しています。

 

それに、クロを追い出したのは、

彼女から野良で生きるための力を奪ってしまったのは、

我が家だったのかもしれません。

 

ごめんね、クロ。

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