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おのづから言はぬを慕ふ人やあるとやすらふほどに年の暮れぬる(西行)
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みきわめは前の時間の教官のアドバイスに基づき二時間連続講習を受けることにした。そのおかげで、曜日ごとに分かれている卒業検定のコースをじっくり練習することができた。検定コースは2種類あるが、一時間だと片方しか練習できなかったそうなので、言われたとおりにしておいたのは幸いであった。

が、不幸だったのはこの教官が、今まででいちばん厳しく怖く毒舌であったことである。

「ハァ? 今まで何やっとったん?」「オイオイ、どうなってんねん!」「さっきも言うたやろ!」もう卒業間近(のはず)だというのにこのていたらく。ここ数時間の教官は比較的ユルかったので自分は上達しているのだと勝手に思い込んでいたのだが、その過信を一気に足元から崩してくれたのは当初の目的からすれば有難いことなのかもしれない。しかしここまできてまさかのイチからやり直し的指導である。走り出してすぐ二時間講習にしたことを深く後悔した。

しかし、この教習所に限らないのかもしれないが、教官たちがおしなべて巧みなのがアメとムチ方式である。襤褸雑巾のようになりながら運転すること一時間半、いつしか鬼教官は影をひそめ、「そうそう、その調子」「最初と全然違うやん」「できるようになったで」と突如謎の誉め殺しが始まった。ようやく教習所に戻り方向変換のおさらいをして、教官は卒業検定の申込書を取り出した。「まあ、大丈夫でしょう」・・・本当か?

しかし前回のように、「無理です」と即答する元気は残っていなかった。

しかもGWまでに取りたいという欲望がちらついていた。この機会を逃すと、試験場での本試験は連休明けになってしまう。私は甘んじて申込書を受け取ることにした。もっとも無限ループに陥る可能性のほうが高いわけだが。

 

かくして、卒業検定当日。

ここまで緊張したのはおそらく学生時代に遡るであろうというくらいに緊張していた。同乗者は学生らしき女の子ふたりである。修了検定のような群を抜く手練れならともかく、「そこそこ」の人たちだったので余計に緊張感が増した。そしていきなりハンドブレーキを下げずに発進しようとするヘマを犯した。

それより前に、同乗者の運転を見ていて、私は致命的なミスを犯したことに気づいた。私はいつも午前に予約を取っていて、みきわめの時間も午前中にコース走行していたのだが、卒業検定は午後に行われる。コースは住宅街で、学校も多い。しかも帰宅時間と合致している。そして見慣れない路駐の車も多い。あまりにも異なる風景に、早くも補習は午後にしよう・・・と考えていた。

そして違うのは風景ばかりか、なぜか交差点に入るたびに黄色になる信号もであった。「ナンデ!」と思わず口に出てしまうほど、次から次へと黄色なのである。停まったほうがよかったのか・・・でも急ブレーキになるし・・・と冷や汗が流れっぱなしであった。

そして最大の難所と言われる通行人の多い通りもくぐりぬけた。ゴールは目の前である。ほっと息をついたのもつかの間、一気に血の気がひいた。視界の端に、立ち止まっている自転車が映ったのである。私は待ち人がいるにもかかわらず、横断歩道を通過してしまったのだ。反対側から進入しようとする車に気を取られてしまった。

ガビ━━━━━━(゚A゚;)━━━━━━ン!!

やっちまったな!

ボーゼンとする私に、教官は機械的に言い放った。「ハイ、そこの信号越えたところで停車してください」

あれ、ブレーキ踏まないんだ・・・ああ、もうすぐゴールだからだな・・・。

後部座席に移った私は、完全に魂を抜かれた状態であった。

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