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おのづから言はぬを慕ふ人やあるとやすらふほどに年の暮れぬる(西行)
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『スパイダーマン』は第1作しか観ておらず、それも「USJのアトラクションがおもしろかったから」というとてもくだらない理由で、そして観終わったあと「2作目はない」と確信したのですが、つまり勧善懲悪で予定調和の娯楽大作は、肌に合わないのです(他の理由もイロイロありますが)。

そしてこの作品を観たのも、「出演しているヒース・レジャーが亡くなったから」という至極くだらない理由です。

『バットマン』の名前は知っていても、1本も観たことがない。まあよくある変身ヒーローもので周囲には秘密で恋人にも明かせず悶々としているパターンだろう、と予想していました。そして半分くらいは、予想どおりでした。

予想を超えていたのは、「悪役」の存在感。

『スパイダーマン』の悪役は言わずもがな、たいていのヒーローものの悪の組織というのは幼稚で単純で支配欲があって、やっつけられる場面では観客に爽快感をもたらす、そんな存在で「なくてはならない」のです。

なのに、ジョーカーは違います。

DVDのジャケットは主人公のバットマンではなく、ジョーカーです。悪役、やられ役のはずなのに。しかし彼は悪役には見えません。衝撃的な登場の場面から悲しい過去を語る中盤、迫力のラストまで、彼はずっと中心にいます。暗闇の中で光る猫の目のように、それ自体光を放つことはなくても、禍々しい輝きを持って。観ている我々はその魔力に魅了され、彼の言葉が、行動がそもそも正義であるかのように錯覚し、張り巡らされた罠にがんじがらめにされていつしか価値観は覆されます。

善と悪は鏡合わせ。ならば本質は同じもの?

演技を超えた鬼気迫るジョーカーの前に、バットマンを演じるクリスチャン・ベールも、モーガン・フリーマンも、ゲイリー・オールドマンも、名だたる俳優陣は皆霞んでしまいました。

悪の華。そんな形容が似合います。不吉なまでに美しく咲き誇り、華麗に散っていきました。

ヒースの名は『嵐が丘』のヒースクリフに由来しているそうですが、彼が存命していたら、現代に甦るヒースクリフを目のあたりにできたかもしれません。つくづく惜しまれます。

評価:★★★★☆

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