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おのづから言はぬを慕ふ人やあるとやすらふほどに年の暮れぬる(西行)
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『リトル・ミス・サンシャイン』

アカデミー脚本賞を受賞した秀作です。

5人家族のフーヴァー家に母親の兄が居候するところから、話は始まります。

この家、なんとも個性豊かです。

ヘロイン中毒で老人ホームを追い出された祖父、

なにかといえば「負け犬になるな、勝ち馬になれ」と理論をふりかざすばかりでカイショなしの父親、

夕食は毎日チキンのヒステリー気味な母親、

航空学校に入るため無言の行の誓いを立てた反抗期の兄、

ミスコンで優勝することを夢見る妹。

かく言うその伯父も、自殺未遂をはかった精神病患者のゲイ。

この多分に「負け犬」な一家が、

妹のリトル・ミス・サンシャインコンテスト出場のためにカリフォルニアへ向かう珍道中を描いています。

特筆すべきは妹オリーヴ。

アカデミー助演女優賞にノミネートされ、菊池凛子とも鎬を削った子役ですが、

大きな眼鏡にプックリお腹、どう見ても美少女ではないのに晴れ舞台に立つことを一途に信じ、

日夜祖父から下品なダンスの特訓を受け、優勝した時のリアクションをひそかに練習します。

私にも7歳になる姪がいますが、表情も喋り方もはしゃぎっぷりもそっくり。

現実に疲れているフーバー家の中で、ただひとり愛らしい笑顔を振り撒きます。

黄色いバスに乗り込んだ一家の旅は、前途多難。

これでもかとばかりに押し寄せる苦境を、

一家は時に衝突し、時に絶望し、時に力を合わせながら乗り越えていきます。

壊れたバスをみんなで押して走って乗り込む。ひとりひとり手をさしのべて迎え入れる。

象徴的な場面です。

カリフォルニアに待っていたのは最後の難関。

唯一元気だったオリーヴから笑顔が失われた時、

そばに寄り添ったのはバラバラだった一家の姿ではありません。

本当はみんな、みんなを愛していたのです。みんな愛されていたのです。

ありのままを照らし出された家族はまたバスを押して帰ります。

行きと帰り、そのバスは同じではありません。

ただでさえボロボロだった車は、クラッチもクラクションもドアさえも壊れました。

座席もひとつ空いています。いろんなものを失った旅でした。

けれど家族は同じバスでひとつになって走ります。

そう、このボロボロの黄色いバスこそが、家族を照らすリトルミスサンシャイン。

評価:★★★★★

 

『パプリカ』

映像化不可能と言われた筒井康隆原作の、今敏作品です。

他人の夢に侵入し、病んだ人々の心を治療をする《パプリカ》という謎の美少女。

彼女の正体は、容姿も性格も異なる精神科医・千葉敦子。

彼女の勤める研究所で開発された《DCミニ》と呼ばれる睡眠中の夢を共有化できる装置が盗まれ、

人々の夢と現実が混乱してしまうというあらすじです。

夢の世界は、えてしてはちゃめちゃなもの。

この作品においても、脈絡なんてものは存在しません。

なにが起きてもいいんです。「だって夢だから」。

最初から用意されている言いわけを武器に、理不尽な展開がくり広げられます。

「ついて来られるやつだけついて来い」とばかりにめまぐるしく転換する映像は、極彩色。

MIX調の音楽によく合います。

夢の世界を縦横無尽に駆け巡るパプリカの活躍。敦子の分身というにはあまりにも自由。

ストイックな研究者の素顔なのか、それとも別人格なのか。

盗まれたDCミニの行方は? 黒幕の陰謀は?

明解な答えはありません。謎は謎のままいつの間にやらハッピーエンド。

突如として降って湧いた恋の行方も、うーん納得いかない。

でも仕方ありません。

「だってアニメだから」。

評価:★★★☆☆

 

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