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おのづから言はぬを慕ふ人やあるとやすらふほどに年の暮れぬる(西行)
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9回2死走者なし。差は6点。

誰しもが、負けを覚悟する場面。

でもあきらめなかった。

つないだ。

終わらない。

これからが、始まりだった。

 

前評判どおりの豪打を誇る中京大中京が破壊力を見せつけ、

雪国から来た日本文理の躍進もああここまでか、と嘆息したのも束の間、

思いがけない展開が目の前にくり広げられた時、

どちらを応援するでもない観客が一体となってマウンドに襲いかかり、

大声援にあと押しされた打球は内野の間を駈けていく。

 

野球はツーアウトから。

言い古されたその言葉が当てはまらない試合だったなら、

首筋をなでる夜風に秋を感じつつ、いつものようにたらたらと帰路を歩んだことでしょう。

あきらめない姿が、今年も終わっていく夏によりいっそう濃い思い出を刻んでくれました。

 

連打、連打。

迷いなく振り抜かれた快音よりも、止めたバットに彼らの技術を感じました。

フルカウント。あの状況で冷静にボール球を見極められる落ち着き。最初の四球がなければ、あのつながりもなかったでしょう。

いつでも、どんな時でも、うしろにつないでいく意識。

決してぶれることなく頂点をめざした彼らの練習量を垣間見た気がします。

 

あの打球さえ抜けていれば。

そのやるせない思いは、

あの平凡なフライさえ捕れていれば。

その痛切な思いに、ほんのわずか、及ばなかったのかもしれません。

 

勝って涙。負けて笑顔。

その両方を包みこむ万雷の拍手。

ああまだこんなに心動かされる瞬間は、この単調な人生の中に残っていたのだ。

8月24日。

ずっと忘れていた大切ななにかが、ぽとりと雫を落としていきました。

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