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おのづから言はぬを慕ふ人やあるとやすらふほどに年の暮れぬる(西行)
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『鬼が来た!』

第2次大戦末期の中国の村が舞台です。

ある青年の家に、突然何者かがやってきて、麻袋をふたつ置いていきます。

その中身は、なんと人間。日本兵と、通訳でした。

「殺せ!」と叫ぶその兵の処置をどうするかで、もめる村人たち。

序盤から中盤は、コメディタッチで進みます。

クライマックスには、一転して驚愕と恐怖と絶望が待っています。

ストレートなタイトルですが、

鬼とは、日本兵なのか? それとも、日本への恨みがある村人なのか?

それとも・・・。

私の義兄は、ある国家風に言えば「悪の枢軸国」のひとつである地域の出身です。

その国で突然戦争が起きました。

義兄の祖国は、どの報道によっても、悪玉になっていました。

私とその国に関係がなければ、私も純粋にそちらを悪と定義していたでしょう。

しかし義兄によれば、その国にはその国の正義が存在しているのです。

いったいなにが正しいのか、わからなくなりました。

思想、宗教、その他もろもろ、

国と国の、ひいては人と人の違いがある限り、この世から戦争はなくならないのだと、

虚無的な思いで銃弾の飛び交う映像を見過ごす日々でした。

違い、言い換えればアイデンティティ。

巨視的な見解は抜きにして、人間にとって守るべきものだと思っています。

大切なものを守り抜くために、人はたやすく鬼になれる。

戦闘機が飛ぶことのない空の下、

地雷の埋まらない舗装された道を歩き、

ぬるま湯の平和をついばむ私にも、

そんな日が訪れるかもしれません。

アイデンティティがまだ存在しているのならば。

この映画に描かれていることは、《語り継ぐべき歴史》ではありません。

国家、思想というボーダーラインをたやすく飛び越えた、

教科書へ置き去りにしてはならない、《あらゆる人間の真実》です。

制作国での発禁処分が残念でなりません。

キャストの演技も素晴らしかった。特に香川照之の熱演は、特筆すべきものがあります。

(難を言えば、セリフが聞き取りにくかった)

評価:★★★★(4.8)

 

『クイズ・ショウ』

テレビでの捏造が問題視されています。

どんなメディアでも、娯楽に《やらせ》はつきもの。

とくにテレビは、動き、音、色彩、あらゆる五官に働きかけるうってつけの情報ツールです。

現代はそうとも言い切れなくなりましたが、やはり大半の人々はテレビで夢を買います。

この時代であれば、ほぼ100%ではないでしょうか。

夢は、しょせん人が生み出す作りもの。

いろいろ学んで大人になった今、人が関わるあらゆるものを、はなから信じることはできなくなりました。

だから捏造捏造と、ことさら声高に責めるのもどうかと感じています。

そういう自分も、なんだかむなしいですが。

経済の波に乗ろうとするスポンサー。

捏造をくり返して英雄になったチャールズ。

それを持ち上げたのも、またメディア。

情報を咀嚼することもなく受け容れる大衆。

その循環がある限り、夢は捏造され続けます。

今この瞬間も、きっと夢。

評価:★★★☆☆

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