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おのづから言はぬを慕ふ人やあるとやすらふほどに年の暮れぬる(西行)
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『暗いところで待ち合わせ』

父親を亡くし、一軒家でひとり静かな生活を送る盲目の少女ミチル。

その家のすぐそばの駅で、松永という男が何者かにホームから突き落とされる事件が起こります。

容疑者として追われている青年アキヒロ。

行方をくらますため、彼はこっそりミチルの家に忍び込みます。

いつもどおり食事をし、掃除をし、コタツに入ってテレビを聞くともなしに聞き、ピアノを弾き、

淡々と毎日を過ごしていくミチルと、

息をひそめて部屋の隅にうずくまり、時折窓の外をのぞくアキヒロ、

当然会話も交わされないふたりの「共同」生活の静けさ。

しんとしたたたずまいの田中麗奈の演技と、

孤独のかげりをたたえるチェン・ボーリンの瞳には、

「いくら目が見えなくたって人の気配くらい気づくだろ」というツッコミは無用です。

ケガにより失明してしまったミチルに、幼なじみとして非常にいい距離感で接するカズエ。

生きにくい外界を嫌って父との思い出にひたろうとするミチルを叱咤し、突き放します。

激昂し泣き荒れるミチルをそばで見つめていた「いないはず」のアキヒロは、

思わず散らかった部屋を片づけてしまいます。

中国人と日本人のハーフとして生まれ、どちらの国でも自分の場所を見つけられず、

あからさまに差別する職場の同僚・松永に憎しみを抱いていた彼だからこそ、

どうしても自分だけの狭い世界に落ち着こうとしてしまうミチルの心を理解できたのでしょう。

外へ出ようとするもためらうミチルの手を取り、そっと誘導するアキヒロ。

ふたりが、外の世界へ頑なに鎖していた心の扉をはじめて開いた瞬間でした。

「本当に必要なのは場所じゃなくて、自分を必要としてくれる存在なのだ」

孤独から解き放たれたふたりの未来は、きっと春の訪れに違いありません。

それにしても佐藤浩市、最近こんなヒールばかりで、少し切ないです。

評価:★★★☆☆

 

『椿山課長の七日間』

浅田次郎は『壬生義士伝』しか読んだことはありませんが、

「ったく、なんだよこの泣かせよう泣かせようって展開はよ。ミエミエなんだよ」

とクサしつつ、しっかり泣かされました。

で、今回もしっかり泣かされました。

突然死した中年男・椿山(西田敏行)が、三日間だけ現世に甦ることを許されるのですが、

なんとその姿は絶世の美女(伊東美咲)。

真逆の姿にとまどいつつも、家族や同僚との正体をばらすことは許されない再会を経て、

生前は知らなかったさまざまな事実を目の当たりにしていきます。

西田敏行の声でひとりごちる伊東美咲のギャップがおもしろい。

雑誌のモデルのような服を着こなせるのも、椿山課長が婦人服売り場担当だったから・・・なんですかね?

「衝撃の事実」を知って酒におぼれる椿山を誘ってきたイケメン男、

思わずふらふらとついていってあわや・・・と思いきや、

その相手は同じように現世に甦ったヤクザの親分であることが発覚。

甦ったのはもうひとり、本当の両親を探す少年・ユウイチ。

少女の姿になって椿山と行動をともにしますが、

椿山の息子・ヨウスケに淡い恋心を抱かれたり、逆にそれを利用したり、

その両親は実は・・・という意外な人間関係が次々に明らかになって、

息をつかせる暇もなく、物語は展開していきます。

ユウイチ少年と両親が再会する場面が最高潮でした。

少年は少女の姿をしているため、真実を言うことができません。

代役として名乗り出たヨウスケと両親を見つめる少女の視線に、母親が気づきます。

自分の産んだ子は息子であって、娘ではありません。でもわかったのです。

言葉もなくゆっくりと歩み寄り、そして抱き合う親子の姿。

「ありがとう」と言い残し、消えていくユウイチ。

無益な復讐を決行した子分を救うため、身を呈してその愚かさを訴えた親分。

皆、それぞれに、穏やかに、思い残すことなく、あの世へ帰っていきます。

椿山もまた、事実を受け入れ、すべてを許して、微笑みながら愛するすべてに別れを告げました。

人間、死ぬ時は、こうありたいものですね。

國村隼・市毛良枝・桂小金治・余貴美子・大沢一樹と、演技陣が達者で、

場面場面がとても充実していました。

とくに子役は須賀健太・志田未来と、今を代表する名子役を使っていて、

とくに14才の母・志田未来は秀逸でしたね。

外見は美容師・中身は親分という役柄の成宮寛貴も注目の若手俳優ですが、

時にカッコよく、時に渋く、相反する両面をうまく演じていました。

まあ、難を言えば伊東美咲ですが、

がんばって西田敏行のセリフまわしを真似ていたと思います・・・。

評価:★★★★(4.7)

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