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おのづから言はぬを慕ふ人やあるとやすらふほどに年の暮れぬる(西行)
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砂の器

運命は変えられると思う僕は和賀の行動が理解できない

 

r087138526L.jpg ★★★★★★☆☆☆☆ 

監督/野村芳太郎

出演/丹波哲郎、加藤剛、森田健作

(1974年・日)

 
 国鉄蒲田操車場構内に扼殺死体が発見されました。被害者の身許が分からず、捜査は難航をきわめましたが、警視庁の今西刑事や西蒲田署の吉村刑事らの必死の聞き込みによって、前夜、蒲田駅前のバーで被害者と酒を飲んでいた若い男が重要参考人として浮かび上がります。バーのホステスの証言では、二人の間で強い東北なまりで「カメダ」という言葉が交わされていたということです。まずは東北各県より亀田姓が洗い出されましたが手がかりはなく、「秋田県・亀田」という土地名から今西は吉村とともに亀田に飛ぶが、何も発見できませんでした。その帰途、二人は列車の中で音楽家の和賀英良に偶然出会います。

 ハンセン病というシビアな題材を扱っていますが、患者への差別を社会的に告発するような映画ではありません。前半はどんどん謎が明らかになっていく推理モノの面白さがあるんですがこの映画はミステリーとしてはそんなに楽しめないでしょう。犯人はすぐにわかりますしね。だからこの映画は、つらい宿命を背負った親子を描いた、悲しい人間ドラマなんですね。

 しかし、僕にははっきり言って和賀の行動は理解できませんでした。正直そこまでしなければいけないのかと憤りすらおぼえました。やはり僕がハンセン病の患者が差別されていたというのは知っているんですが、それがどのぐらいのレベルだったかを分かっていないからですね。だから運命は変えれるものだと普通に考えてしまうし、和賀の築いてきたものが海辺の砂の器のようにもろいものだとも思わなかったです。

 ただ、最近の邦画やTVドラマでは太刀打ちできない、重厚さのある素晴らしい映画なのは分かります。奥行きの深いストーリーに、美しい映像やオーケストラ演奏の音楽を効果的に絡ませ、映画の印象をより強いものにしています。後半は壮大な叙情詩を見ているかのようです。

 「この映画は泣ける!」と以前僕の母親が言っていて、その時にどんな話かを聞いていて展開の予想がついていたからか、特に泣くことはなかったんですけどね。しかし冷めていたわけではないですよ。父と子が冬の海辺をとぼとぼと頼りなく歩くところなんかは、彼らの心情を考えると、胸が締め付けられましたから。

 回想シーンの父親役の加藤嘉という人の演技は凄すぎますね。もう亡くなった方だし、この人がどんなキャリアの持ち主かまったく知らないんですが、おそらく一世一代の演技じゃないでしょうか。この人以外の出演陣もみな演技が上手かったですけどね。最近の邦画とはえらい違いです。もちろん今でも演技が上手い人はたくさんいるんですが、主要キャラを演じる役者全員が一定の水準を満たしているというのはほとんどないですから。

 この映画の評価は★6とします。僕がもうちょっとオッサンだったら、ハンセン病に対する知識もあっただろうし、全然評価は違っていたと思いますけどね。この映画は1974年に作られているみたいですが、その時僕はまだ生まれてすらいないですから。

 あと、ラストの捜査本部・演奏会場・回想シーンの三元中継は、ちょっと狙いすぎでしょう。たいていの人はこういう演出で気分が高まるのかも知れませんが、僕はお遍路親子の映像をずっと見ていたかったですね。場面が切り替わるたびにイライラしていましたから。それもこの映画で泣けなかった理由の1つかもしれません。







<砂の器 解説>

 ある日、国鉄蒲田操車場構内で扼殺死体が発見された。被害者の身許が分らず、捜査は難航した。が、事件を担当した警視庁刑事・今西と西蒲田署刑事・吉村は地道な聞き込みの結果、事件前夜、被害者と酒を飲んでいた若い男の存在に行き当たる。今西と吉村の2人は東北なまりの“カメダ”という言葉を数少ない手掛かりに、男の行方を追う。しかし2人の執念の捜査もなかなか実を結ばず、犯人へと繋がる有力な情報は得られない日々が続いた。いよいよ迷宮入りかと思われたとき、小さな新聞記事がきっかけとなって、捜査は急展開を見せ始めた。
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