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ノッキン・オン・ヘブンズ・ドア
男の友情をまっすぐに描いた好感の持てる作品
監督/トーマス・ヤーン
出演/ティル・シュヴァイガー、ヤン・ヨーゼフ・リーファース、
ティエリー・ファン・ヴェルフェーケ
(1997年・独)
致命的な脳腫瘍のマーティンと末期の骨髄腫のルディは、それぞれ医者から余命わずかと宣告され、同じ病室に入院することになります。マーティンは見た目そのままの荒っぽい気性の男ですが、ルディは対照的に線が細くおとなしい性格です。「天国じゃみんなが海の話をする。」と言ったマーティンに対して、ルディが海をまだ見たことがないと答えたため、2人は駐車場にあった車を盗み、人生最後の旅に出かけることにしました。しかし、その車は実はギャングのもので、中には大金が積まれていました。
まあ、特にここが素晴らしいとかそういうのはない映画です。雰囲気もタランティーノ作品や僕が最近見た「ロック、ストック&トゥー・スモーキング・バレルズ」に非常に良く似ているので、目新しさはないです。タランティーノ以降の若い監督に多いんですが、プロットは単純だし、予算はないから大物俳優も使わないけれども、セリフ回しやストーリーのテンポ、音楽の使い方などに工夫をする典型的な脚本勝負の映画ですね。
しかし、あまりにも男の友情をまっすぐに描いているので、いくら僕が大人になって家族以外の人間を全面的に信用しなくなったといっても、やはりちょっとは感動してしまいます。昔あった「キン肉マン」という漫画は、キン肉マンを始めとする正義超人達はよく友情パワーという奇跡の力を発揮して苦境を乗り越えていましたが、そういえばあの漫画も僕はむちゃくちゃ好きでしたし。
この映画の主人公達はキン肉マンと違ってどうせ死ぬんだからと開き直って窃盗や強盗など悪いことばかりするので、あまり友情パワーをいい方向に働かせているとは言い難いですが、なぜか憎めないし、応援したくなります。まあ一番の理由は彼らが人殺しはしないからでしょう。だから本当の悪い奴には見えません。ちなみにこの映画はけっこう派手な銃撃戦やカーチェイスなどがありますが、何だかんだ言って人は1人も死んでいないと思います。アクション映画の殺伐とした雰囲気はほとんどない映画です。
かなりコミカルな場面も多いですしね。主人公達を追いかけるギャングもかなりマヌケですし。というか主人公達もどこかやることがズレていて、けっこう笑えるところは多い映画です。しかし、たまにマーティンが発作を起こし、それが非常に苦しそうなので、その時は急に現実に引き戻された感じがして緊張感が出てきます。何だかんだいって重病患者ですからね。あせって薬を探したりするルディの様子も見ててせつなくなってきますし。だからこの映画は単なるとぼけたおとぎ話ではないですし、かといって重くて暗いだけの話でもない。そのへんのバランスは非常にとれている映画だと思いますよ。
ラストもまあ予想通りの展開ですが、悪くはないです。このシーンを見てると、主人公達がうらやましいなあと思いますね。たぶん、主人公達は病室でお互い出会うまではそんなに幸せな人生を送ってなかったと思うんですよ。ですが出会ってからは間違いなく幸せな人生だったと思います。
僕なんかはちょっとでも体調が悪くなるとすぐに心も折れてしまう弱い人間ですし、医者に余命わずかとか言われたらどうなるんだろうとよく考えます。もちろん、後悔のないようにやりたいことやって死ぬのが理想なんですが、おそらく現実には何をやっても楽しくないぐらい落ち込んでしまって、結局何もできないまま死ぬんだろうなと思います。それに1人だと、いくら死ぬ覚悟があっても、出来ることも限られてくるでしょう。しかし、この映画の主人公達のように、「こいつとだったら何でもできる。」というぐらいの絆がある奴と一緒なら、かなりパワフルに生きられそうな気がしてきますからね。
死んだ後に困らないために行動を起こすという主人公達の究極的に前向きな姿勢も素晴らしいと思いますね。はじめは、「はぁ?海なんか簡単に行けるやろ?」と思いましたが、よう考えたらドイツが日本と違って周囲に海が少ないですからね。
<ノッキン・オン・ヘブンズ・ドア 解説>
本国ドイツで大ヒットとなったアクション・ロード・ムービー。余命わずかと宣告され、たまたま末期病棟の同室に入院させられたマーチンとルディ。二人は死ぬ前に海を見るために病棟を抜け出し、ベンツを盗んで最後の冒険へと出発した。その車がギャングのもので、中に大金が積まれていたことも知らずに……。道中、残り少ない命の彼らに怖いものなどなく、犯罪を繰り返し、ギャングのみならず、警察からも追われる身になるのだが……。