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おのづから言はぬを慕ふ人やあるとやすらふほどに年の暮れぬる(西行)
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誰も知らない

監督が母親の責任を棚上げしていることは許せない。

 

r081973033L.jpg ★★★★★★☆☆☆☆ 

監督/是枝裕和

出演/柳楽優弥、北浦愛、木村飛影

 (2004年・日)

 

母親と、その子どもの4人の兄妹の話です。子どもたちは母親によって社会から隔離され、学校に通うこともなく、特に下の弟妹はアパートの部屋から出ることすら許されません。しかし彼らはそれを受け入れて生きてきました。ある日母親は、現金20万円と「京子、茂、ゆきをよろしくね」と記した長男の明宛の書き置きだけを残して姿を消します。残された子どもたちの、自分達の生活を守り抜くために日々を生きていく姿を描いた話です。

 まず言っておきたいんですが、僕はこの映画は好きではありません。しかし、非常に完成度の高い映画です。演出も、編集も、撮影も、どこをとっても作り手の魂が感じられ、凄みすら感じさせる作品です。照明や音楽なども抑えているように見えますが、それがかえって静かな迫力を醸し出しています。僕も映画好きのはしくれとして、好き嫌いは置いといてこの映画が優れていることは認めます。

 この映画の秀逸な点としてまず言えることは、映画の世界観を壊してしまうようなナレーションや説明的なセリフは一切ないのに、子どもたち4人の父親が違うことや、子どもたちが学校に行かせてもらってないのにそのことに対して母親を憎んだりしていないこと、それどころか母親を愛していることなどを、上手な描写で自然にこちらに伝えてくれるところです。僕はよくドキュメンタリー番組も見るのですが、ああいうのは変にナレーションがたくさん入ってることが多く、こちらはあくまで見てるだけの第三者であることを再認識させられるので、登場人物に素直に感情移入できないですからね。

 また、実際に起こった事件が素材とはいうものの、この監督は事件の起こった状況、背景をモチーフにしているだけで、独自の解釈で作品を作っています。また、実際の事件は1980年代に起きていて、その頃は援助交際などはまだなかっただろうから、この映画は舞台を現代に移しているんでしょう。それなのに、この映画は、異様なまでのリアリティがあります。ここまでリアリズムを追及し、またそれに成功している作品には、僕は出会ったことがありません。見る側に感動や主張を押し付けるような過剰なドラマ性は一切排除し、風景画のように子どもたちの生活を描いています。子どもたちの演技もとにかくリアルです。目線も、仕草も、セリフも、ほとんど素に見えます。ここまでリアルな演技を引き出した監督の手腕はすごいなあと思いますね。

 映像も素晴らしいです。「母親が戻ってくる」というかりそめの希望がだんだんと絶望感に変わってくる子どもたちの表情の変化、それに伴って荒れていく子どもたちの生活する部屋の様子を丁寧に撮っています。また、部屋の外の世界の映像には一種の爽やかさも感じられ、この映画に澄んだ空気を与えてくれます。アポロチョコ、カップヌードル、おもちゃのピアノ、マニキュア、キュッキュッと音が鳴るサンダル、粘土、花の種などのこの映画に登場する様々なアイテムは、普通にどこにでも目にするものなんですが、一つ一つが生々しく映し出されています。
 
 そこまでリアリティがある作品だからこそ、母親に見捨てられるという不安がだんだんと大きくなっていき、心がおびえ不安定になりながらも、日々力強く生き抜こうとする子どもたちの様子を1シーン1シーン見るたびに胸が締め付けられていきます。僕が一番心に残ったシーンは、明はゲームセンターで出来た友人達を、生活費の一部でゲーム機を購入してそれを餌に家に呼んでまでつなぎとめておくんですが、万引きが出来なかったばかりにそいつらから見放され、明に聞こえるか聞こえないかの距離で「あいつの家、臭いんだよ」と言われるまでになり、結局友達の縁が切れてしまいます。しかしある日椅子から落ちた妹のゆきのために、明は湿布薬を万引きして、全速力で駈けて来て、ゆきを助けようとするんです。僕の頭の中には、「明はこんなにすさんだ生活の中でも良心や信念は失わずにしっかりと持っていて、それに従って自分の頭で考え動ける素晴らしい人間だ。」という思いと、「近所の大人でもコンビニの兄ちゃんでも誰でもいいから助けを求めろよ!っていうかまず救急車を呼べよ!お前はどこまで強情な人間なんだ。」という思いが交錯し、非常にもどかしい気持ちで胸がいっぱいになり、とてもしんどかったですね。

 というわけで素晴らしい映画なのは間違いないんですが、1つだけ許せないところがあって、それが僕のこの映画に対する評価を大きく下げているんですね。それは、監督が母親の責任を棚上げしてしまっていることです。僕はYOU演じる母親が明に言った「あたしが幸せになっちゃいけないの?」というセリフに本当にキレそうになりましたから。こいつに加害者意識はないんでしょう。しかし、子どもたちは間違いなくこいつの「幸せ」の犠牲になった被害者です。しかしこの映画では子どもたちを被害者として描くのではなく前向きに力強く生きているように描くことによって、加害者側の責任も曖昧にし、特に非難するような描写もありません。実際に悲惨な結末に終わった事件を題材にしているのに、監督もここを逃げたらいかんだろと思いますね。だから僕はこの映画が好きになれないんです。点数は★6です。
さすがにこの出来でこれ以上低い点数はつけれないです。

 僕の同僚には小さな子供がいる人が何人もいます。そいつらはやれ子どもが熱出しただの入園式だの参観日だのでしょっちゅう休んだり早退したり遅刻したりするし、子どもの世話をせなあかんとか迎えに行かなあかんという理由で僕も当然行きたくない職場の飲み会をさも当然のように断ります。僕は「お前が自分の好きで作ったガキのために何でオレの仕事が増えんねん!」とか思いながらいつも苦々しく見ているので、たまに自分は子ども嫌いかなと思ったりもするのですが、この映画のように戸籍が無いので予防接種も受けられず、学校にも行けず、病気や怪我の時も病院に行けない状況でも何とか無事に育ってきたのに、挙句の果てに親もいなくなるというところまで追い詰められた子どもたちを見てると、本当に切なくなってきます。だからこそ、せめてラストは「誰も知らない」世界の「継続」ではなく「突破」という形にしてほしかったですね。このラストでは何の希望も持てませんからね。


 

 



<誰も知らない 解説>

 主演の柳楽優弥が史上最年少の14歳という若さで、2004年度カンヌ国際映画祭主演男優賞に輝いた話題作。『ディスタンス』の是枝裕和監督が実際に起きた、母親が父親の違う子供4人を置き去りにするという衝撃的な事件を元に構想から15年、満を持して映像となった。女優初挑戦の、YOU扮する奔放な母親と子役達の自然な演技も秀逸。母の失踪後一人で弟妹達の面倒をみる長男の姿は、家族や社会のあり方を問いかける。

 けい子(YOU)は引っ越しの際、子供は12歳の長男の明(柳楽優弥)だけだと嘘をつく。実際子供は4人いて、彼らは全員学校に通ったこともなく、アパートの部屋で母親の帰りを待って暮らしていたが…。

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