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おのづから言はぬを慕ふ人やあるとやすらふほどに年の暮れぬる(西行)
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マルホランド・ドライブ

意味不明ながら不気味なインパクトを残し、今でも数シーンは明瞭に思い返せる『インランド・エンパイア』のデヴィッド・リンチ監督作でカンヌ映画祭の監督賞を受賞した作品です。

女優を夢見る主人公、記憶喪失の美しい女、謎の大金と鍵。当初はサスペンスの様相で、物語が展開します。失われた記憶を取り戻すため手がかりを探すふたり。不安を抱える者が手を貸してくれる相手に縋り身も心も捧げてしまう流れは理解できます。これが男女であれば、恋愛物語によくある手法なのでしょう。しかしこの映画においては女同士。ベッドに横たわり夜衣をはいで唇を重ね。本来ならば画面の中でも見る機会がほとんどないだけに瞠目してしまう場面なのですが、なぜかふたりの心情にシンクロし、切ない慕情に胸が痛くなりさえするのです。

唐突に世界が変わる後半。前半に頭をめぐらせた「謎解き」はここで一気に粉砕されます。当初はナオミ・ワッツが二役を演じていることに気づかず、わけがわからないまま終わってしまい、あとでヤスオーの解説を聞いてようやく納得するありさまでした。思い返せば要所要所で、キーポイントとなる台詞をいろんな登場人物が口にしていました。この監督の作品はくり返し観て、ようやく理解できるようなものが多いのでしょう(もっとも『インランド・エンパイア』は二度と観る気は起きませんが・・・)。この話は世界が「夢」と「現実」のふたつで構成されていたので、まだわかりやすかったのだと思います。

リタの紅い唇、ベティの清楚なたたずまい、ダイアンの絶望の涙、もの悲しい泣き女の歌ごえ。めくるめく色彩と効果音が眼裏に鮮やかによみがえります。この映画を観はじめたその時から二時間、クラブ・シレンシオに連れていかれていたのかもしれません。そして今でも、その魔法は解けていないのでしょう。

評価:★★★★☆

 

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ヤスオーと古都の片隅で暮らしています。プロ野球と連ドラ視聴の日々さまざま。
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