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人は、残酷だ。
誰かを簡単に傷つけておとしめて踏み躙る。
人は、弱い。
常にその足元に誰かの姿を探して安堵する。
人は、愚かだ。
起きている間にも夢を見て輝くはずの明日を待つ。
ハーレムに生まれ父親から性的虐待を受け母親からは恋人を奪った相手として憎まれ、貧困の中満足な教育も受けられず17歳にして二児の母となったプレシャス。
彼女は愛を知らない。父親に犯されながらささやかれる愛が愛ではないことは知っている。彼女の安らぎは想像の中だけにある。そこでは彼女はスポットライトの下で踊り歌い喝采を浴び男からは熱烈なキスを受ける。しかし現実は母から口汚く罵られこきつかわれ暴力を振るわれる毎日。太陽は厚い雲の上。プレシャスに光は決して降り注がない。
妊娠が判明したことにより学校から追い出され居場所を失ったプレシャスがようやく出会ったぬくもり。代替学校の教師、級友、産院の看護師、そして新しい命。ぼろぼろに傷ついた彼女の心は、それらによって少しずつ縫い合わされていく。次から次へと彼女を襲う、不幸と表現するにはあまりにも凄惨な事実に打ちのめされながらも、彼女は明日を向く。自分の、自分だけの道を歩く。
人は、弱い。
時には地面に這いつくばることもあるだろう。土に爪を立て泥を噛み涙をこらえ、上から嘲笑を浴びせられることもあるだろう。
「転ぶことは恥ではない。転んでも立ち上がらないことが恥なのだ」
プレシャスを観ていて、そんな言葉を思い出した。
そう自分に言い聞かせた時があった。プレシャスと同じ歳の頃だった。プレシャスに較べたらとるにたらない行き詰まりかもしれない。しかし彼女と同じように、夢を見た。いつか素敵な恋ができると思っていた。明日を信じた。自分を信じた。光ある明日は来なかった。それでも信じ続けた。
それは若さだった。若さゆえの強さだった。
母となったプレシャスの特別な意志ではない。10代の、誰にでも秘めるエネルギーが、プレシャスを強く前向きに見せたのだと思う。
今の私は若くない。転んでも立ち上がれるかどうかわからない。だからいつも、転ばない道を選ぼうとする。強くもなく弱くもない。輝かなくてもいい、中庸でつまらない今日と同じ明日を迎えることを願いながら床に着く。
落ち葉のごとく剥がれていった若さを惜しむことはない。それも人生の着地点だから。
過酷なハーレムの生活やオブラートなしに描かれる虐待の実態。しかし辛さよりも悲しみよりも、ただ人の残酷さや弱さや愚かさが身に沁みる。
それなのに、いとおしい。
それだから、人はいとおしい。
評価:★★★★☆