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おのづから言はぬを慕ふ人やあるとやすらふほどに年の暮れぬる(西行)
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『ブラッド・ダイヤモンド』

アフリカの小国、シエラレオネが舞台です。

そこではダイヤモンドが産出されるため、利権をめぐって激しい内戦がくり広げられています。

ある日突然家族や友人を失い、住むところを奪われ、子供を拉致される。

そんな明日を一度だって想像したことはないし、これからだってできません。

そしてこれは過去の話ではなく、つい最近同じ空の下で起きていた事態です。

私たちが文学や算数を学んでいる時に、大人の醜い欲望に巻き込まれ、

人をあやめる術を叩きこまれていたその国の子どもたち。

犠牲者というひとことでまとめるにはあまりにも残酷な人生です。

レオナルド・ディカプリオが演じる傭兵は、ダイヤを手に大陸から脱出を目論む醜い大人のひとり。

しかし大きなダイヤの隠し場所を知るソロモンと知り合ったことから、

ふたりのダイヤを目指す道行が始まります。

女性記者との淡い恋、難民キャンプでの家族との再会、少年兵として洗脳された息子の救出など、

ハリウッド的なわかりやすいエピソードをまじえつつ、国の苛烈な現状を描いた胸に迫る作品です。

婚約時に「ダイヤ!」とねだりながらも却下されたので、

「10スウィートダイヤモンドは必ず」と脅迫していた私でしたが、

「ほら、これ観たらもうダイヤなんか欲しくなくなるやろ」と言われ、

まったくそのとおりなので返す言葉もありません。

宝石店の前を通ると胸が痛みます。

評価:★★★★(4.8)

 

『となり町戦争』

ある日なにげなく開いた公報に、「隣の町と開戦します」と書かれていたら。

まず本気にはしないでしょうね。

日常はなんにも変わりません。

テレビじゃ野球をやってるし、仕事はいつもと同じようにあるし、道も車も動いてるし。

ただ境界に白線が引かれていたり、どこからともなく戦時訓練の声が聞こえてきたり、

発表される戦死者の数が増えていたり。

あるいは自分が諜報員に指名されたり。

いつの間にかどこか遠くの「となり町」で始まって、

いつの間にかすぐ「となり」に来ている、それが戦争という恐怖。

さまざまな事件がタイムリーに届く情報化が進んだ現代においては、

かえってなにもかもが身近に感じられません。

物価の値上がりは地球の反対側で起きている戦争のせいだと言われても、

実感とは程遠いのが現状です。

その空隙をついた非常に興味深い作品です。

実際、隣町と戦争するなんてありえない。

でも「いかにもありそうだ」と思えるくらいのステレオタイプな町役人。

県庁さんはまたしても「チッ」と思っているかもしれませんが、

作者は公務員らしいですね。こんなふうに書いて大丈夫なんでしょうか。

役に立つのかわからない報告書を書きながら、対策室の美人な女性職員にちょっとドキドキし、

ましてや彼女と偽装とはいえ結婚してひとつ屋根の下で暮らせるなんてことになったら、

独身の30男はもう任務そっちのけ。

でも戦争は日々深刻化し、ついに同僚も銃火に斃れます。

かたちの見えない戦争というものの意味を考えはじめる主人公。

主人公視点で話を追う我々も、当然戦争のありようは見えません。

なんのために、どのように始まり、続いていくのか。

それがかたちを持って姿を現した時、はじめて「なにも変わらない毎日」に変化が起き、

生きていく意味を見出だすのです。

正直、ラストまでかたちはないのではないかと思っていました。

そのほうが言い知れぬ恐怖を持続できたし、

かたちとして現れた瞬間に、何度となく見てきた戦争映画になってしまいました。

しかし、時代や社会が変わっても、変わらないのが戦争であり、人間の姿なのかもしれません。

江口洋介は周囲に振り回されやすい平凡なサラリーマンをうまく演じていました。

ヒロインの原田知世は「歳とったなあ」という感じですが、

役人の地味なスーツスタイルも清楚な新妻のロングスカートも似合っていました。

評価:★★★☆☆

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