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おのづから言はぬを慕ふ人やあるとやすらふほどに年の暮れぬる(西行)
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スケルトン・キー

こんなにいい映画が劇場未公開なのはかわいそうですね

 

r162055585L.jpg★★★★★★★★☆☆ 

監督/イアン・ソフトリー

出演/ケイト・ハドソン、ジーナ・ローランズ、ジョン・ハート

 (2005年・米)

 

脳梗塞で倒れ全く身動きのできないベンとその妻のヴァイオレットが暮らす家に、主人公のキャロラインは住み込みの看護師として働くことになりました。しかし彼女は、昔その家で起こった惨劇や、古来から伝わる呪術「フードゥー」など、屋敷の恐ろしい秘密を目の当たりにしていきます。

 ビデオ屋で借りるのがなくて適当に目についたから借りただけですし、日本では劇場未公開だったようなので、はっきり言ってまったく期待していなかったのですが、この映画は面白いです。登場人物も少ないし、話もほとんど屋敷の中で進むので、あんまり流行らなそうな地味な映画ですが、こんなにいい映画を劇場で公開しないというのはあまりにもかわいそうですね。実際に見たら、この映画は劇場でやっている大半の映画より優れているのは誰でも分かるんですけどね。ホラー映画としても、サスペンス映画としても、ケチのつけどころがないぐらいいい出来の作品です。

 この映画は、急に大きな音を出したり、不意に何かが出てきたりなど、とにかくびっくりさせて怖がらせようとする出来の悪いホラー映画ではありません。それどころか「この映画は怖いよ」というアピールが終盤までほとんどないのです。しかし、登場人物の行動や屋敷の状況は見てて違和感のようなものは感じさせます。全身麻痺のために自分の感情を主人公に伝えることのできないベンの様子は、よけいこちらのもやもや感を増幅させます。

 つまりラストまではけっこう淡々としていて面白くもないし怖くもないんですが、とにかくこの映画はラストが秀逸です。登場人物が少ないので誰が悪玉かはわかるし、描写が丁寧なのでだいたいの落としどころも読めるんですが、その読みのさらに上をいくラストです。僕はそれまでの登場人物達のセリフや行動を約30秒間冷静に思い返し、やっとこのラストの真の意味がわかりました。本当に救いのない恐ろしいラストです。それまでに散りばめられていた数々の伏線の意味が理解でき、隠されていた一部の登場人物達の悪意や不気味さに戦慄させられるのです。

 それまでのストーリー描写もかなり丁寧で、ラストもけっしてとっぴなものではないのに、予想はできないという、本当にサスペンスと名のつく映画はそれなりに見てきた僕でも唸らされるぐらいの緻密で奥の深い脚本です。主人公がヴァイオレットの顧問弁護士のルークと2人っきりで部屋にいた所に、突然ヴァイオレットが入って来て嫉妬するような表情をしてたので、ほんとにこいつは年がいもなくバカなババアだなあと思っていましたが、バカは僕でした。

 映画全体に漂う雰囲気の作り方もうまいです。屋敷の古めかしい陰気な感じはもちろんのこと、奴隷制度やフードゥーなどの小道具がよけい映画を不気味なものにしています。主人公が友達と会っている時や弁護士の事務所の様子なんかがたまに映るのですが、それがこの映画の時代設定はあくまで現代だということをこちらに分からせて、よけい怖いです。そういえば主人公の友達は黒人です。これも初めはやっぱり違和感があるんですがちゃんと意味があります。

 役者陣も頑張っています。ジーナ・ローランズの貫禄の演技はもちろんのこと、しょうもない映画にばっかり出ているという印象しかなかった主役のケイト・ハドソンも普通に良かったです。しかし1番印象に残ったのは弁護士ルークを演じていたピーター・サースガードという人ですね。僕はこの人あんまりよく知らなかったんですが、気持ち良くなるほどの陰湿な演技をしておりとても良かったです。

 この映画の点数は★8ですかね。本当にいい映画なんですが、あえて難を言うならまとまりすぎていて、スケールが小さく見えるんですね。だから微妙な点数になってしまいました。いやもちろん同じぐらいの時期にきちんと日本の劇場でも公開され、同じようなジャンルで、同じぐらいスケールが小さい「ヴィレッジ」とかいうなまはげの映画よりはこの映画の方がよっぽどいいですよ。


 




<スケルトン・キー 解説>

 老夫婦の住む屋敷に住み込みの看護師として働くことになった女性が、徐々に明らかになる屋敷の秘密を目の当たりにし、古呪術の恐怖に襲われるホラー・サスペンス。

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