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おのづから言はぬを慕ふ人やあるとやすらふほどに年の暮れぬる(西行)
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「奈良県東南部に宿泊すると、往復のバス代が無料!」
こんなキャンペーンがあったことを、実施期間終了のぎりぎりまで知りませんでした。

これは、行かなければ…今、ふたたびの十津川へ!


というわけで、今回はひとりバスの旅。

事前計画では、五條からバスに乗り賀名生梅林で途中下車、梅林を見て回ってから十津川へ…というスケジュールだったのですが。

当日、朝から雨。

それも大雨。

天気予報では午後に向けてやんでいくようだったので、なんとかなるかなと思ったのですが、家を出た時はおそらくいちばん雨脚が強い時間帯だったのでしょう。長傘は邪魔になるので折りたたみ傘でしのぐつもりだったのですが、駅へ着く頃には全身びしょ濡れで体ヒエヒエ…。

このまま雨がやまなければ、梅林どころではない。早く温泉であったまりたい…。

冷えた体をひきずり電車を乗り継いで五條駅へ。もちろん、学習したのでICOCAは使いません!
雨はややましになったとはいえ、降り続いています。
駅には「祝甲子園出場」の垂れ幕が。五條は智辯学園の最寄り駅。そういえば、センバツは明日開幕のうえに智辯は開幕試合なのでした。

この季節、自販機ではもうあまり見かけなくなったホットレモンを買い、バスを待ちます。

やってきました。おや、以前乗ったバスとは違って、コミュニティバスのような小型です。しかも行先は十津川温泉になっています。
梅林計画のため、前回より一本早い電車に乗ったのですが、この時間帯はまだ八木新宮特急バスは走っていないのでした。
出発したものの、迷っていました。雨の中観梅はきついし(しかも次のバスは二時間半後)、昨夜からの雨で、もともと五~七割咲きになっていた花はほとんど散ってしまっているかもしれません。最寄りのバス停のひとつ前まできて、降車ボタンを押そうかどうしようか迷っていると、別の乗客が先に押しました。よし、ここは様子を見よう。
バス停に到着。他の客が精算している間窓の外を観察すると、やはり予想どおり、山肌を覆っているはずの彩りはほとんど見えません。しかもそこそこ雨が強い。

よし、やめよう!

計画変更、このまま十津川温泉まで乗り、公衆浴場に浸かってからホテルへ向かうことにしました。
これなら最初から梅林はあきらめて前回と同じバスに乗ることにしていれば、もう少し遅起きできたのに…。

皮肉なことに、雨は少しずつ弱くなっていきます。空も明るくなってきました。車窓に広がるダム湖もきれいなグリーンです。

最初の休憩地、上野地へ到着。外は霧雨程度でした。




つり橋からの光景も、曇り空では冴えません。

そういえば通路をはさんで隣の席に新聞を包んでいるらしい袋がいくつか置いてあったので、何だろうと疑問に思っていたのですが、どうやらこのバスは新聞配達も兼ねているようでした。ところどころのバス停に待ち人がいたので、こんなところから乗車するのかと驚き半分で思いきや、運転手さんがその袋をさっと取って渡しました。バス停の前にあった商店の人なのでしょう。また、旅行者以外の乗客もはじめて乗り合わせました。一日三本、廃線も検討されている路線ですが、なくてはならない村民の足でもあるのです。

さて、終点のバス停・十津川温泉に到着したのは11時過ぎ。ホテルへ向かう次のバスは二時間半後。
この時間帯、付近は閑散としています。喫茶店の看板はありますが、営業しているのかどうかあやしい。それよりも早くあったまりたい。
十津川温泉にはふたつの公衆浴場があります。ひとつはバス停の目の前にある「庵湯」。

 

さっそく向かいました。もちろん、誰もいません。店員さんすらいません。しばらく待っていたらようやく現れて、急いで準備をしてくれました。
「熱かったら、ここで水出してね~」と案内された湯船。



あっつい! さっそく水を注ぎましたが歯が立たないくらい熱い! 水の出るホースのそばから動けません。

窓からはダム湖が見えます。

雨に濡れて冷えた体をあたためるために肩まで沈めてゆっくり浸かっていたら、あたたまりすぎた模様…。上がるとクラクラ。

さて、まだ12時。

せっかくなので、もうひとつの公衆浴場へ行くことにしました。
バス停から少し歩いた場所にある、「南部老人憩の家浴場」。



こちらは名前のとおり、ご近所さんがふらっと立ち寄る銭湯といった感じです。のれんをくぐると、ちょうど「おおきにー」と風呂上がりの男性が出ていくところでした。



ちょっと大きな古民家のお風呂、といったぐらいの大きさ。

入った時にはひとり先客がいたのですが、「熱いからここで水出すといいよー」と教えてくれて上がっていかれました。
言われたとおり、こちらも熱い。しかも庵湯よりさらに熱い。源泉かけ流し、というよりも源泉そのものと言わんばかりの熱さ。
こちらも心の中ですみませんと謝りながら豪快に水を出し、ホースのそばでじっと待つ。ようやく適温になったので水を止めると、十五秒で元の熱さに…。水を出したり止めたりをくり返しながら、堪能しました。

バスまであと四十分。おなかもすいてきました。バス停前の商店でおにぎりを買っても、それを食べながら待てるような場所も見当たりません。ここにいてもただただ退屈…。
どうしたものか…。

ベンチに座って途方に暮れていると、庵湯前の看板が目に止まりました。「よろずや 営業中」。…何か食べられるかも?

おそるおそる扉を開ける。食堂でした!

めはりずし定食を注文。その値段からして、そこそこ量はあるでしょうし出てくるまでも時間がかかるでしょう。

この時点で、バス発車まで三十分。実にビミョー。
ホテルはここからバスで五分程度。到着したところで予約したチェックインの時刻まで間がありすぎて、すぐには入れないでしょう。距離は2キロ程度ですから、歩けないわけでもない。

ごはんが出てきました。



…うん、あと十五分では無理だ。

きのこバターがいい香り。ゆうべしもついています。何よりめはりずしが…ひとつでお茶碗一杯分くらい…。
しかし早起きと温泉でカロリー消費していた身体は、全部たいらげてしまうのでした。

他にお客さんもいなかったので、店主さんが話しかけてくれました。
私が気になっていたのは、壁に貼られた楽天・浜矢広大のポスター。「ご親戚ですか?」「いいや、十津川出身なんよ」

えー!

高校は和歌山の日高中津分校だそうです。智辯和歌山の牙城があるので甲子園には出られませんでしたが、社会人野球に進んで、松井裕樹が一位指名された年のドラフト三位で楽天に入団したと教えてくれました。この間もオリックスが抑えられた…という話題は出せませんでしたが。

などと話している間に、乗る予定だったバスが出ていくのが窓から見えました。

十津川は野球より、剣道がさかんなのだそうです。全国大会で優勝した人もいたり、これも十津川郷士が京の御所を守ることになった歴史と深いかかわりがあって、その精神が今に受け継がれているのでしょう。
店主さんのご先祖も、幕末に志士として活動し、霊山護国神社にそのお墓があるのだそう。
「今日どこ泊まるの?」「ホテル昴です」「どやって行くの? バスまだあったっけ」「どうしよっかなー…と…」「電話して迎えに来てもらおうか?」
ええっ。送迎は予約制だと書いてあったので、突然はむりだろうからあきらめていました。

店主さんは私が食べ終わる頃に電話してくれました。
「すぐ来てくれるって」
なんと!



しかもこんなかわいいどんぐりトトロまでいただきました。鞄の中でひっくりかえってボンドがついてしまいましたが…。

感謝してもしきれません。ありがとうよろずやさん。次来た時も寄せてもらいます。

本当にほどなく送迎車が来てくれました。突然の呼び出しにもこころよく車を出してくれたホテル昴さん、ほんとうにありがとう。

公衆浴場の人たちといい、十津川の人はみんないい人です。

「突然なのに本当にすみません」「いえいえ」「お昼食べている間にバスが出てしまいまして…2キロなら歩けるかなーと思ったんですが…」「都会の2キロと違いますから…」
確かに車で走ってみると、そこそこ距離があります。歩けないことはありませんが、歩道がないから少し危なかったかもしれません。

時刻は2時過ぎ。やはりチェックインには早すぎた。急いで部屋を準備してくれた宿の方にも申しわけない。

しばしテレビを見ながらボンヤリしていましたが、お風呂は夕食後にしようと思っていたので、プールへ行くことにしました。

連休なので、家族連れでにぎわっていたらどうしよう…と不安でしたが、杞憂に終わりました。ふたりほど、本気で泳いでいる人たちしかいません。
よーし、運動不足を解消するために泳ぐぞー。

…しまった! またゴーグル借り忘れた。今さらフロントに戻れないので、裸眼で泳ぐことに。また目が真っ赤になってしまう。
三十分ほどプールを往復して、疲れ切る前にあがりました。

部屋で相撲を見て、夕食。



バスの窓から「アマゴ解禁」の文字をいくつも見ましたが、この夕食にもアマゴのお造りと焼きアマゴが。



もちろん、むこだましも。



添えられた桜が春を感じさせます。



デザートも春仕様。

食事のあとは温泉へ。
ゆっくり浸かってごくらくごくらく。
月明かりで星は見えませんでしたが、お天気のもよう。

明日にそなえて、さっさと寝ました。

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