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おのづから言はぬを慕ふ人やあるとやすらふほどに年の暮れぬる(西行)
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青木崇高という俳優をはじめて観たのは、『繋がれた明日』という、やはりNHKのドラマでした。

殺人を犯し少年刑務所を出所した主人公が、世間の偏見や罪悪感と自己弁護の相反する意識にさいなまれながらも現実と向き合い日々闘い続けるという非常にヘビーな作品でした。

その主人公を演じた青木崇高はインタビューにおいて「毎日追い込まれていた」と語っていました。難しい役どころながらも切実に真摯に演じていたのが印象的で、将来はきっと演技派として名を成すだろうなと感じました。『ちりとてちん』(未見)でヒロインの相手役、さらには『龍馬伝』で後藤象二郎役のために10kg太った役者魂や、福山龍馬を食った(と思う)目力が話題となりました。かなり名を売ったと思っているのですが、世間的にはどうなのでしょうか。

 

で、このドラマですが、役者・青木崇高の独壇場といっても過言ではありませんでした。

『繋がれた明日』と同じく、相当役に入れ込んでいたようで、試写会では涙を流しつつ改めて酒巻少尉の生きざまに感銘を受けていました。

役を理解し演じきるには、難しい人生の一幕だったと思います。

戦場におもむき、あたら命を散らすのが宿命であり本望であった時代。生をあたりまえに享受する現代人であっても、簡明で直接的なその価値観に従うのはたやすいでしょう。しかしその時代にあって、虜囚と言う死にも等しい恥辱を味わいながらも細胞に刻みこまれた価値観を捨て生きのびようとする命。生きることが何故恥なのか。愛する息子が海の藻屑と消えて喜ぶ親がどこにいるというのか。軍神として崇められても嬉しいことなどなにひとつない。しかし敗戦国となった日本が生きて帰ってきた酒巻たちを安穏と受け容れる許容などなかったこともまた事実。戦争は終わったのに、真珠湾突撃の現場から酒巻の存在は削られ、法廷の証言も消されてしまう。屈辱を乗り越え、命を使い果たすために帰還した母国に居場所はない。虚無に襲われ訪れた懐かしい海沿いの町。”軍神”たちがかつて人間であった場所。思い出の地に立ち酒巻はこれからの己の命の使い方を改めて考える。

 

当時のすべてを、今現在の地点から理解しようとするのは困難であり、また傲慢であると思います。悠久の歴史があり、昭和があり、今があるのですから、巨大な歴史の大回転をわずか30年たらずの歩幅で確かめることはできません。ましてやその正否を問うことはもっとも愚かなことであると感じます。ただ思うのは、酒巻少尉の人としての苦悩に寄り添い、人として今在る己の命の使い方を考えるのみ。暖かい部屋で安閑とお茶を飲み、テレビをつければ情報をすぐ手に入れられ、話したければ携帯電話で声を出さずとも会話ができる、無為な日々をやり過ごしながらも擦り減っていくこの命、それでも今を生きたと言える明確な何かが欲しくて人はツイッターやらフェイスブックやらで人と繋がりこの世界に足跡を残そうとする。”軍神”として終えた命も、トヨタ・ブラジルの社長として終えた命も、ひとしく使い果たされた命。きっと変わらないのです。文明や思想や価値観が違っても、生まれてきたこの命を何とかして意味あるものに終わらせたいと願う人の気持ちは。

 

「明治は遠くなりにけり」と詠んだ句人がいましたが、「昭和は遠くなりにけり」といったところなのでしょうか。

最近は感情論を極力排した姿勢からの戦争ものが増えたように感じます。今回のドラマも、酒巻少尉の人生の一部分を切り取って、彼の視点から時代背景を描いたことで、ともすれば是非を突きつけがちな戦争ものの構えがありませんでした。脚本や演出もさることながら、主役の役になりきった魂の熱演が功を奏したように思います。

ただ残念だったのは、四国の一般市民である出演者たちに方言がまったくなかったことです。何か理由あってのことかもしれませんが、NHKらしくない手落ちだなと思いました。

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