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『徒歩7分』
ナイナイ尽くしの依子の日常は週を重ねるごとに少しずつ変化を重ねる。いつの間にやら季節は過ぎて、隣人とは良き友達になり、宛先違いの手紙から始まった仲の田中は階下に引っ越してきて、好きだったはずの光一はいつの間にか依子の心の外にいた。変わらないのは弁当屋のおばさんとバイトの険悪ぶりと無駄話。
自分の描いていた未来は過去の記憶からできていたものだったと気づいた依子は、ついに段ボールの封印を解く。「マンガ」と書かれていたにもかかわらず、毎日暇をもてあましていた依子はそれを開くことはなかった。なぜならそこには、マンガ本ではなく、マンガを描くための道具を詰めていたから。
依子は崖から一歩踏み出すことにした。
咲江との別れを受け入れることにした。
病気の母と向き合うことにした。
白い原稿と戦うことにした。
田中の告白に甘えることにした。
依子の世界はきっと徒歩7分から広がることはないだろう。それでも未来は、ここから無限に広がっている。依子にはそれが見えている。自分のことが、まわりのことが、人びとの気持ちが、依子にはきちんと見えている。だから無地の原稿に夢を描く。
大きなカップに満たされた飲み物のように、身も心もじんわりとぬくもりに満たしてくれる、そんな居心地の良い作品でした。
『だから荒野』
あまり話題にはなりませんでしたが、ストーリーもキャストも音楽も、非常に完成度の高い作品だったと思います。BSプレミアムならではのクオリティでした。
ひきこもり次男の濱田龍臣くんの成長ぶりも驚きでしたが、長男役・前田公輝の飄々とした演技もなかなかでした。自分のことをちゃっかりしていると評し、母親のことは「あの人は大胆だ」と本質を見抜く冷静な目を持っている。長崎へ行くか迷っている父親の背中をポンと押す。それまであまりフォーカスされていなかった健太も、実はちゃんと四人家族を支える一本の柱であったことを感じさせる最終話の流れが秀逸でした。
出色であったのはやはり品川徹演じる語り部でしょう。当初から感じていた穏やかな物腰の奥底にある静かな怒りの原因は、最終話になってあきらかになるのですが、その告白の場面は真に迫るものがありました。
原爆を扱った作品はその問題の大きさゆえに、どうしてもそれにまつわるメッセージ性が強くなってしまうのですが、これにおいてはあくまで舞台装置のひとつとして抑えた描写が素晴らしかったと思います。
朋美の、山岡の、亀田の、優太の、それぞれの荒野。しかし彼らはそれぞれに荒野を沃野に変えていく。それが人と人とのかかわりであり、世界である。「だから荒野」――不思議なタイトルは、冒頭で眼前の世界から目をそらし続けた朋美がしっかりと見据える真実となりました。
「祈りの長崎」…一度、訪れてみなくては。