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おのづから言はぬを慕ふ人やあるとやすらふほどに年の暮れぬる(西行)
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『あまちゃん』
以前からの習慣で今期も見始めた朝ドラ。やがてあのオープニングを聴かないと一日が始まらなくなり、何度も観直しては画面に散りばめられた小ネタを発見して喜んだり、同じシーンでくり返し涙したり、いつの間にやらすっかりめっきりどっぷりあまオタ。しかし「その日」は近づいてくる。「その日」を挿入するかどうかで悩んだというクドカン。2011年から2年を経て震災を扱う創作ものも徐々に現れてきたとはいえ、いまだ解決していない諸問題を前に、コメディ色の強いこのドラマがいったいどのようにして未曾有の災害を扱うのか、楽しい時間が悲しみに覆われてしまいはしないかと不安でいっぱいでした。
そして訪れた「その日」。はじめて聴く劇中音楽は緊張感を高め、誰しもの動向が気にかかる中で何よりも北鉄の車両に乗り込んだユイちゃんと大吉さんの身を案じました。真っ暗なトンネルで、何が起きたのかわからずともとんでもないことが起きたことだけはわかる恐怖に襲われながら、『ゴーストバスターズ』を口ずさみ自身を奮い立たせる大吉さんの姿は、それまでのお調子者のイメージを一変させるほど真に迫っており、胸を打ちました。表情だけで演じるには相当に困難な場面だったと思いますが、杉本哲太と橋本愛の演技は白眉でした。
 がれきの中でもふてぶてしさを忘れない愛すべき北三陸の人たちは、「被災者だから」と逆手にとって利用できるものは利用してしまいます。あの日の大きな悲しみは、画面をまたいでまたたく間に笑顔へと変わりました。それでこそK3NSPを唱える北三陸です。しかし誰しもが復興へと歩みだせたわけではありません。津波が故郷を、そして夢をのみこんでしまった光景を目のあたりにしてしまったユイちゃんは、「その日」に立ち止まったままでした。
また、「その日」から動けなくなってしまったのは、ユイちゃんだけではありませんでした。
 自然の猛威の前に人間の無力さを思い知らされた絶望感はその日から被災地だけでなく日本じゅうを覆いつくしました。失われた命を悼み、失われた日常を悲しみ、しかしここはガスも電気も食糧も今までどおり消費できる世界であり、こたつでテレビを見ながら被災地を憂えたところで、それは本当に今自分が取るべき行動なのか。何かもっとできることがあるのではないか。あの時多くの被災地外の人びとが共有したであろうもどかしさは、鈴鹿さんの葛藤に集約されていました。震災のことが頭から離れず、セリフの言いまわしひとつひとつにナーバスになる鈴鹿さん。鈴鹿さんもまた、ずっと「その日」に捉われていました。

♪来てよ その「ひ」を飛び越えて

「ひ」とは「火」であり、「日」でもあったといいます。
被災者であるユイちゃん、被災者ではない鈴鹿さん。それぞれがそれぞれの立場で飛び越えなければならなかった「その日」。終盤の一ヶ月、ていねいに描かれていたその時の流れ。飛び越えたユイちゃんの腹黒さに笑い、飛び越えた鈴鹿さんの歌に涙しました。薬師丸ひろ子をまさかの絶対無理音感、なんてたってアイドルのキョンキョンを影武者に設定したその意外性が、最後の最後で奇跡の歌声に包まれる至福の時間を届けてくれました。

ああ、あまちゃんが終わってしまう。
あまロスなる言葉まで生みだした今期の朝ドラ。それぐらい、毎日が北三陸とともにありました。彼女たちの日常を追いかける時は過ぎてしまったけれど、北三陸に行けばみんなに会えるような気がします。海にはキラキラ輝くアキちゃんと元気な海女クラブが、海女カフェには漁協の人びとが、駅前のビルには観光協会と自慢のジオラマ、そしてかわいい列車と愉快な駅員さん。喫茶リアスとおいしいうに丼。ああ、早く行ってみたい。あの灯台に向かって全速力で明日に向かって走ってみたい。
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ヤスオーと古都の片隅で暮らしています。プロ野球と連ドラ視聴の日々さまざま。
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