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「普通」だと思っていた。自分も、自分を取り巻く環境も、過去も、未来も、すべてが「普通」だと信じて疑わなかった。住田と茶沢と同じ歳の頃だ。
もちろん、ほんとうに自分は「普通」に生きていたのかもしれない。
父親に死ねと言われたことはない。母親にひとり残して出ていかれたこともない。おこづかいをパチンコ代にとまきあげられたことも、ましてや自分を死なせるための絞首台を作られたこともない。
だが、「普通」であろうと思えば思うほど、教室の笑い声から遠ざかっていった。正論という名の偽善もはやりごとの雑談も、窓際の最後列からの風景はいつもうすっぺらく、違和感を抱かずにはいられなかった。
教室の一段高いところから見下しながら、大人はひとりひとりがかけがえのないたったひとつの花なのだと嘯く。 だが「普通」であることこそが生きていく道しるべと信じて疑わない、一段低い制服の胸には届かなかった。
教室を去って久しい。なにが「普通」であったのか、どう「普通」であろうとしたのか、今となってはもう思い出せない。
3.11によって、物語のラストは変えられたと聞く。
その日、世界も「普通」の姿を失ってしまった。
「普通」ではない世界で「普通」に生きようとする住田と茶沢。その息苦しい姿に、もしかしたら、あの教室にいた誰しもが「普通」であろうとしていたのかもしれないとふと思った。自分と同じように、違和感を憶えながらも作り笑いを貼りつけていたのかもしれない。「普通」であることこそが、楽な道だった。同じ制服に包まれながらそれぞれの「普通」を生きていた。
最上の選択であったはずの「普通」が単に自分の勝手なものさしだったと気づく時。
たったひとつの花は、その時に咲く。
道は続く。走る。狂気とナイフと価値観を投げ棄てて。住田、ガンバレ。そのエールは乾いた心にしみわたる。住田と茶沢は知ったのだ、うすっぺらい風景の向こうに広がるたったひとつの未来を。