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おのづから言はぬを慕ふ人やあるとやすらふほどに年の暮れぬる(西行)
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見えない力により首相暗殺事件の犯人に仕立て上げられた男が、仙台市内を駆けまわる逃亡劇。

平凡な人間が知らない間に大きな事件に巻き込まれているというパターンは『20世紀少年』にもありますが、背中を冷たい羽根で撫であげられたようなゾゾッとする恐怖に襲われます。主人公の宅配業者・青柳は、2年前暴漢に襲われていたアイドルを助け一躍ヒーローとなった以外は、本当に平々凡々な30男。友人の森田に釣りに誘われ意気揚々と出かけた先で、罠とも知らず首相の就任パレードに行き合わせます。開始早々、爆発事故というかたちで観ている者を襲う衝撃。わけがわからないまま逃げ続ける先で、警察に追われ銃で狙われ、平凡な生活は一気に恐怖のどん底に。なぜ、青柳が冤罪に問われたのか。森田は誰に依頼を受けたのか。謎は解けぬまま、青柳は古くからの友人、新たな友人の助けを借りて、封鎖された仙台市内を疾走する。

原作を読んだことはありませんが、今一世を風靡している伊坂幸太郎。『重力ピエロ』もミステリーと家族愛を臭くならない程度にミックスさせた不思議な感触の物語でしたが、こちらもまた、サスペンスと友情と信頼を絶妙の溶かし具合で濁らせず、139分と短くない作品ながらラストまで一気に息を詰めて主人公の逃亡劇を見守ってしまう迫力に満ちています。

オープニングから張り巡らされた伏線とその回収は秀逸。キャストも脇に至るまで隙がありません。同級生にしては年齢構成がバラバラですが・・・。香川照之と大森南朋の使い方は少しもったいないような。濱田岳と永島敏行は薄気味悪くて光っていました。

無実の罪で逃亡する主人公といえば、最近観たドラマ『逃亡弁護士』が思い出されますが、そちらや「ともだち」と違い、真の黒幕は作品内に置いて最後まで判然としません。主人公のその後もまた、含みを持たせて終わります。

現代の仙台市の風景とファンタスティックな設定のアンバランスさ。その独特な世界観が枠にぴったりとおさまって、非常に満足させられる作品でした。

評価:★★★★☆

 

 

~ヤスオーのシネマ坊主<第2部>~

 面白いし、感動するところもあるし、切ない気分にもなるし、非常に良い映画です。なかなか凝っていて考えながら観なければいけない一筋縄ではいかない映画ですが、特にストーリーも破綻していないです。良いところはたくさんあるのですが、黒幕の正体を明かして主人公がそいつを倒すという勧善懲悪モノにせず、主人公が正体を消してしまうという何ともやりきれないラストにしたのが一番良かったのではないでしょうか。まあこのへんは原作の力なのかもしれませんが、原作を変に変えてダメになる映画なんていっぱいありますからね。

 時系列も上手く使っています。最初のデパートのシーンはさすがに予想つきませんでした。結局これが主人公と竹内結子がついに再会するところなんですね。非常に切なくていいです。やられました。ただ、ここがこの映画の満点に少しだけ達しないところなんですが、竹内結子がミスキャストでしたね。もうちょっと魅力のある女優だったような記憶があるんですが、しばらく見ない間にどうしたことでしょう。主人公との別れ方から考えてキャラ設定がクールなのはわかるんですが、昔の友人と主人公の信頼関係というのはこの映画の重要なテーマなんで、もうちょっと魅力的な女性にみえないとダメですね。

 これ以外にも色々な伏線が張り巡らされており、それがあちこちで細かく繋がっているのも観ていて気持ちがいいです。花火なんてこういうノスタルジックな雰囲気も出したい映画では必須のアイテムですけど、やはり主人公の投降シーンで使われた時は爽快感がありました。書き初めもいいですね。「痴漢は死ね」と主人公のオヤジが男のくせにそこまで痴漢を嫌うというのは、彼も痴漢の冤罪で昔ひどい目に遭ったのでしょうか。そのへんも考えさせてくれますね。

 竹内結子以外は俳優陣も完璧でしたので、★は9です。マスコミを批判しているところや、主人公以外の人間にもある程度スポットを当てて少し群像劇のように描いているところなど、あらゆる面で僕の好きな映画の要素を満たしています。

 評価(★×10で満点)★★★★★★★★★

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