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おのづから言はぬを慕ふ人やあるとやすらふほどに年の暮れぬる(西行)
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恋人同士だったジョエルとクレメンタイン。倦怠期の仲たがいから距離を置き、仲直りをしようとジョエルが考えていた矢先、彼女が自分だけの記憶を消す特殊な手術を受けたことを知る。そして彼もまた、彼女の記憶を消すことを決意し、同じ病院「ラクーナ社」を訪れる。

恋は必然か偶然か。

私は偶然だと思う。

何億もの人の中から、特別な想いを抱く誰かに出会ってしまったこと自体、奇跡に近い。

ジョエルとクレメンタイン。出逢い、恋に落ち、熱を上げ、やがて冷めていく。世の恋人同士なら誰しもがぶつかる幾つかの壁。そこで背を向けて二度と触れ合うことのない人生を送るのも選択肢のひとつ。

その道を選ぶなら、愛していればいたほど、想ひがしばらく埋み火と残りかき乱されてしまうだろう。

苦しまないために。その日々を思い出さないために。彼らが選んだのは、「お互いの記憶を消す」という手段。

一瞬にして消え去るならば、それもありかもしれない。しかしその施術は脳内の記憶をひとつひとつ取り出しながら消していく地道な作業。ジョエルは鮮やかに彩られた記憶の海を泳ぎだす。

彼女とともに歩いた道、過ごした日々。

いつしか寄り添っていたはずの彼女の姿が遠ざかる。想い出の中から、消えていく。しかし、ジョエルの想ひは消えない。彼女が遠くなればなるほど、埋み火は徐々に緋く、強く、燃えだしていく。

忘れたい。それは恋の一側面。しかし、忘れようと思えば思うほど、はっきりと愛していることを思い知らされる。それもまた、古から変わらぬ恋の真実。

記憶の削除という近代的な技術をもってしても、恋の道は運命と呼ぶにはあまりにも平凡でありふれた展開から逃れられない。ジョエルとクレメンタインもまた然り。

あたりまえの想いをあたりまえの結末に導くこの作品。しかしジョエルの心に深く共鳴する密度の濃い2時間。雪原の上で凍えながら手をつなぐような温もりを感じる、冬に大切な誰かと過ごす時、思いだしそうな作品です。

評価:★★★☆(3.8)

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