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20世紀初頭、アメリカの石油王の物語です。
石油王というと、
白亜の豪邸で妾をはべらせ美酒美食に囲まれる贅沢三昧の生活を思い浮かべてしまうのですが、
主人公のダニエル=プレインビューはちょいと違います。
一介の山師であった彼が石油の世界に足を踏み入れ、
富と支配欲の権化と化す過程は、
台詞のない背景に響き渡る不協和音に象徴されています。
順調に行くはずだった彼の計画の前に立ちはだかったのは、イーライという青年。
教会で神を語る彼もまた、慾にまみれた俗物に過ぎず、
長い確執の終焉は、
大地から染み出る石油のごとく、手を黒く汚し、
大地から噴き上げる炎のごとく、すてを焼きつくした果ての喪失。
家族のいないダニエルが唯一愛情の限りを尽くしたのは息子のH・W。
しかし油井の事故で聴力を失ってから、親子の間に溝ができ始めます。
イーライの妹である心やさしいメアリーは、友達のために手話をともに習い、
成長したふたりは結ばれますが、その頃にはダニエルとの距離は決定的となり、
独立しようとする息子に向かい、ダニエルは「おまえは拾い子だ」と容赦ない言葉を浴びせます。
その言葉は事実なのだろうか。
成功すればするほど汚れていくダニエルは黒、
H・Wは彼がいつも飲ませていたヤギのミルクのごとき白。
自分は決して戻れない世界にいる息子に、ダニエルは男として嫉妬していたのではなかろうかと。
そしてまた一方で、彼がこちらの世界に来てしまうことを危惧したのではないだろうかと。
自分の手に入れられなかった家族と幸せを築いてほしかったのではないだろうかと。
でもよくよく見れば粗筋に「孤児を拾って」と書いてありました・・・。
ダニエルはやはり心底の黒だったのでしょうか。
少し足をひきずりながら、療養先から帰ってきた息子のもとへ駆けていく彼の姿からは、
身を引き裂かれそうな孤独と闘う哀しみしか感じられなかったのです。
真実はどこにあるのか、善悪は誰が決めるのか。
最初から最後まで語らない映画でした。
評価:★★★★☆(3.5)
<おまけ:ヤスオーのシネマ坊主>
この映画のタイトルの「THERE WILL BE BLOOD」なんですが、最初っから父親と息子がコンビで出ていたから僕はてっきり「BLOOD」は「血のつながり」を意味するのかと思っていました。しかしラストまで見ていると普通に「血」ともとれるし、さらに「石油」に掛けているようにもとれます。タイトルからしてなかなか意味が深い映画です。中身も、演出・脚本・演技・音楽・映像・編集のすべてにおいてかなり気合が入っています。ここまで骨太な作品はなかなかないですよ。
今回の映画のさや氏のレビューはかなり優れているので、僕はあんまり書くことないんですけど、さや氏の言うように、主人公のプレインビューは、オープニングの一人採掘で友情を信じていないことはすぐさまわかりますが、息子として育てていたH・Wへの愛情はあったと思いますね。決して取引相手の警戒心を解くためだけに育てていたわけじゃないと思いますよ。最初の方の、プレインビューと息子が電車に乗っているシーンで、まだ言葉もしゃべれない幼い息子がプレインビューの髭をいじくっているシーンがあるんですが、この時のプレインビューの温かい笑顔に嘘はなかったですからね。
ただ、彼は成功への欲望とそれに向かっていくエネルギーがものすごかっただけなんですよ。そもそもアメリカのような資本主義社会で成功するためには、他人なんか信用していたらだめだし、それどころか自分より下に蹴落としていかなければならないですからね。「血と骨」という映画でビートだけしが演じた在日の成り上がりのオッサンもそうでした。だから別に彼の行動は単純に悪とは言い切れないし、資本主義社会なんだから仕方ないじゃないかと思えます。そしてこの映画にはプレインビューと対立する、イーライといううさんくさい牧師も出るんですが、彼は「信仰」というきれいごとに身を包んでいるものの間違いなくプレインビューと同じ欲にまみれた人間です。しかし彼も表向きは宗教によって地域の住民に救いを与えており、悪人どころか社会に必要な人間じゃないかとも思えます。
こう言うとこの映画がアメリカ資本主義や宗教を批判している映画のようですが、そんな単純なものでもないです。やはり描いているのは人間だと思います。それも善悪では推し量れない、人間が生きていくうえでの性(さが)のようなものを描いています。観た後はすごく重たい気分になるんですけど、いつまでも心に残る映画だと思いますよ。ただ、気になるところがいくつかあって、まず「ポール」と「イーライ」の区別はもうちょっと分かりやすくしてほしかったですね。同じ役者に演じさせたらダメでしょう。僕はこれラストまで「イーライ」が「ポール」になりすましていると誤解していましたから。あと、これはさや氏と同意見なんですが、H・Wが本当の息子ではないという描写もしっかりとしてほしかったです。
評価:★4/(★5で満点)