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おのづから言はぬを慕ふ人やあるとやすらふほどに年の暮れぬる(西行)
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高校生の時、友達と尾道旅行に出かけました。

旅行の予習をするにあたり、『転校生』という映画の存在を知りましたが、

男女の体が入れ替わる--というのは、さしてめずらしくないモチーフなので、

さして興味がわかず、ましてや林芙美子『放浪記』も読む気がせず、

結局なんの予備知識もなく出かけたわけですが、

坂の上から見下ろす尾道の街なみは、とても趣深いものでした。

歳を重ねてからもう一度、今度は勉強して行ってみたい場所です。

で、この『転校生』ですが、

歳を重ねたせいか? 尾道を思い出すようになり、

さらにリメイク作品ができて話題になったこともあり、

「よし、いっちょ観てみよう」とレンタル店に向かったものの、

古い作品のせいかDVDが出ておらず、VHSでの鑑賞となりました。

昔、同じ原作で観月ありさ主演のドラマ『放課後』を観たことがありますが、

人気アイドルの観月ありさよりも、まったく無名だったいしだ壱成の演技のほうが光っていました。

女が男役をするよりも、男が女役に徹するほうが勇気のいることだと思うんですよね。

でも、この『転校生』に限って言えば、小林聡美のほうが圧倒的に輝いていました。

なんと脱いじゃっているんですが、まったくいやらしさを感じない豪快なヌードです。

動作のひとつひとつも、ナチュラルに背景に溶けこんでいて、後年を思わせます。

もちろん、尾美としのりもすばらしい。意識が変わるとまるで別人になるのは、お見事。

印象的なシーンはいくつもあって、

意識がもとに戻った一夫が、「やっとできる」とばかりに立ち小便をするのですが、

それをもとに戻った一美がほほ笑みながら見守ります。

入れ替わりがなければありえなかったシチュエイションですが、

一夫は生き生きとしているし、一美の表情はまるで聖母のよう。

思春期に直視できないみずからの性を、否が応にも見つめざるを得なくなったふたりが、

性差を超えて共有したタブーの空間です。

もっとも心に残るのは有名なエンディング。

「さよなら、あたし」「さよなら、オレ」と、互いに別れを告げながら、

一夫の持つ8mmファインダーに映る一美は徐々に遠ざかり、

やがてあきらめて背を向けて歩きだします。

泣いているのかと思いきや、突然にスキップ。

そして、まだ映されているのをわかっているかのように振り向きます。

それは最初の一美ではなく、ひと夏にいろいろなことを経験した一美。

「さよなら」は新しい自分への挨拶でもあったのです。

爽快なのに、なんだか泣きたくなるような、心にしみるラストシーンでした。

評価:★★★★☆

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