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おのづから言はぬを慕ふ人やあるとやすらふほどに年の暮れぬる(西行)
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『分身』

この本を読んだのはちょうどクローン羊ドリーが話題になった時でした。

文庫本でしたから、それよりもずっと前に書かれていたわけです。

新潟の地震で高速増殖炉の耐震性が騒がれましたが、

あれも『天空の蜂』ですでに問題視していましたから、作者の先見性には驚くばかりです。

ドリーの誕生から次々に研究が進み、クローン動物が生まれてももうめずらしくない時代になり、

民間人も手に入れられるようになりました。

どこかの外国では、死んでしまった飼い猫のクローンを作ってもらって喜んでいた女性がいましたが、

本当にうれしいことなんでしょうか?

遺伝子が同じであることになんの意味があるのでしょう。

まったく同じに成長しても、人格がある限り同じではありません。

ミーコやマイのクローンが現れたら生き返ったようでうれしいけれど、

決してもとのふたりではないことがわかっているから、なお悲しいと思います。

クローン研究は難病治療に不可欠であり、いずれ不治の病がなくなればいいとは思いますが、

鞠子や双葉のような悲しみを背負う命は生み出してはならない。それを強く感じる作品でした。

 

『あの頃僕らはアホでした』

当時は『変身』『分身』のようなシリアスミステリーばかり読んでいたので、このギャップには驚きました。

とにかく笑えます。

私と作者の育った時代には20年の乖離がありますが、大阪という町は基本的には変わらないのです。

といっても、私の故郷は作者の地元よりはるかに治安は良い(ハズ)ですし、

小5・6年時の担任は給食をいっさい残すことを許さないという方針の持ち主でしたから、

作者の教室のように残飯を出すことはできなかったです。

袋に余ったマーガリンは吸わされましたし、

お椀のふちについたおかずもシチューだろうが煮物だろうがパンで拭わせられました。

今でも忘れられないのが、食べ終わってゴミ箱に入れたりんごを「まだ食える」と拾わされ、

クラスメートの同情の視線を浴びながら席に戻り半泣きで食べたことですかね。

食べ物を粗末にしないという教育も大事ですけど、子どものプライドとかは無視ですか。

まあそんなことはどうでもいいのですが(教師の悪口になると指が滑る・・・)、

とにかく最初から最後まで、抱腹絶倒間違いなしです。

子ども時代って、やることも知ることもなんでもおもしろいものですが、

大人になると全部忘れちゃうんですね。

なのにひとつひとつをはっきりと憶えているのはすごいです。

私もウルトラマンは好きでしたが(もちろんその時にはすでにウルトラ家族)なにも憶えていませんから。

あとF大は全然馬鹿ではありません。

 

『怪笑小説』

「鬱積電車」そうそう、そのとおり。こんなクスリが開発されたら、誰も電車には乗れません。

「逆転同窓会」本当に、作者も教師が嫌いなんですね。行間からヒシヒシ伝わります・・・。

「超たぬき理論」短編ながら、作者の話巧者ぶりを感じることのできる秀作です。

「あるジーサンに線香を」これを祖母の通夜中に思いついたというのは、賛否両論でしょうけど、

そういうふうにからりと見送ってもらう人生も、なかなかいいのかもしれないと思いました。

 

・・・つづく

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