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おのづから言はぬを慕ふ人やあるとやすらふほどに年の暮れぬる(西行)
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『誰も知らない』の是枝裕和監督の作品です。

心を持ってしまった空気人形。性処理の代用品でしかなかった彼女は、心を持つことにより新しい世界を知る。水を、言葉を、労働を、おしゃれを、そして恋を。「心」にあふれる感情に満たされていく。

しかし実際、彼女を満たしているのは空気。

作中、彼女はしきりとくり返す。「わたしは、空気人形」

「人間になりたい」ではない。彼女は知っている、自分が決して人間にはなれないことを。これがこの映画の地盤をしっかり固めているために、充実していく「人形」と満たされない「人間」がコントラストとしてあぶり出されていきます。

空っぽの身体に息を吹き込めば甦る空気人形。しかし人間はそうもいかない。人間を満たすのは空気ではない、命の営みだ。心は空っぽのくせに、身体を形成しているのはゼイタクな物質だ。まるでごみごみした下町のように。いろんな人がいるように、いろんな物質でできている。そして欠けたものは補えない。甦ることは、ない。代用品は、ない。

あまり美しいとは言えない町並み、そこを歩くメイド服のペ・ドゥナ。アンバランスなのに不思議と溶けこむのは彼女がほんものの人形に見えたからでしょうか。序盤、かなり生々しい場面もありますが、彼女の無機的な肌の質感が不快指数を減少させてくれたので、最後まで観ることができました。恋する相手とのラブシーンも、そのものの持つ本来の意味を提示するような崇高な場面であったと思います。

脇を固める俳優も豪華ですが、質を損なうものではありませんでした。非常に完成度の高い、たんぽぽの綿毛のようなふわりと心をとおり過ぎていく、透明感のある作品でした。

評価:★★★☆(3.8)

 

~ヤスオーのシネマ坊主<第2部>~

 最近うんこみたいな邦画を2本立て続けに見て邦画アレルギーになりそうでしたが、今回の映画は良かったです。やはり僕は日本人なので、どうしても邦画の方が感情移入しやすいので、この映画や「少年メリケンサック」のようにそれなりに出来のいい邦画は、「ベンジャミン・バトン」や「スラムドッグ・ミリオネア」などのアカデミー賞レベルの洋画にけず劣らず面白いです。邦画の方が絶対数が少なくどうしてもうんこ映画に当たる危険性が高くなるのですが、こういういい映画もありますから、これからも邦画も観ていこうと思います。

 まずこの映画の一番いいところは、ヒロインがラストで人形に戻らなかったところですかね。ここが一番胸を打つと思います。ここで人形に戻ったら、この映画はただのファンタジー映画で終わっていたでしょう。彼女の中の空気で飛んでいるでしょうタンポポの綿毛は、彼女の状態と対比した「生」への希望みたいなものなんでしょうか。この描写も素晴らしいと思いますね。彼女の空想のバースデイパーティも切なさに満ち溢れていて良かったです。終わり際のシーンばかり褒めていますが、途中はちょっと退屈でした。この映画は都会の心が満たされていない、つまり空気人形のような人間が次々に出てくるのですが、彼らは「バベル」や「クラッシュ」のように特に「人と人とはどこかで繋がっている」わけではなく羅列的に描かれています。絡み合わないのはそれはそれでいいんですけど、あまりにも人がたくさん出てくるので、「何だただ単にこの監督は尺を伸ばしたかっただけか。」とかちょっと変なこと考えてしまいだれてしまったんですね。

 しかしレンタルビデオ屋で彼女がちょっとしたアクシデントで身体に穴が空いてしまい、好きな男に息を吹き込んでもらうシーンは良かったです。これはヒロインを演じたペ・ドゥナの演技のおかげですね。初めは好きな男に自分の人形というコンプレックスがあからさまになってしまった悲しさと、人形らしいとぼけた顔がいりまじった表情をしているんですが、それがだんだんとエロ恥ずかしい表情に変わっていきます。こんなに純粋無垢で美しいラブシーンはなかなか見ることが出来ません。僕はラブシーンは一番邪念が入りやすいのですが、このシーンは集中して見ることができました。この二人がベッドで空気を抜いたり息を入れたりするシーンも良かったですけどね。どうしてこの二人がこんなことを繰り返しするのか、彼らはこのコミュニケーションによって何を得ているのか、はちょっと僕の理解力では上手く説明できないです。ただ、人間というものはもちろん元々は実体としてありますから空っぽの空気人形ではないのですが、人と人との関係を通じた社会の中で空っぽの空気人形として存在するようになってしまい、しかしその空気を満たしてくれるのもやはり人なんだなと思いました。

 まあラブシーンだけでなく全編を通してペ・ドゥナは頑張っていたと思いますよ。日本語がたどたどしいところ、脱ぎOKのところ、人形のようなスタイルなども含めて彼女は適役でしたね。逆に、前に「ネガティブハッピー~」でいい味を出していると褒めた板尾はこの映画ではダメでしたね。この役は難しいですから、イメージだけでなくもうちょっと演技力を重視して役者を選んだら良かったのではないでしょうか。 

 評価(★×10で満点):★★★★★★★★

主演女優賞候補…ペ・ドゥナ

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ヤスオーと古都の片隅で暮らしています。プロ野球と連ドラ視聴の日々さまざま。
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