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おのづから言はぬを慕ふ人やあるとやすらふほどに年の暮れぬる(西行)
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運命じゃない人
 

典型的な脚本勝負の映画だが今となっては目新しくない。

 

r162060985L.jpg ★★★★★★★☆☆☆ 

監督/内田けんじ

出演/中村靖日、霧島れいか、山中聡

 (2004年・日)

 

 相手の浮気で婚約破棄になり住む所さえ失った女、桑田真紀が1人寂しくレストランで食事をしていると、隣の席の男が声をかけてきました。その男は私立探偵の神田勇介。半年前に捨てられた女のことをいつまでも引きずっている親友・宮田武のために、女の子をナンパしてあげたのです。しかし神田はトイレに行ったと思いきや、そのレストランから忽然と姿を消します。1人残された真面目でいい人なだけが取りえの不器用なサラリーマンの宮田は、ぎこちなく真紀に話しかけ、彼女が今夜泊まるところがないと知り、自分のマンションに泊まるように勧めます。

 よくできている映画ですよ。特に脚本は素晴らしいです。「メメント」ほど極端ではないですが時系列をたびたび遡り、「パルプ・フィクション」のようにいろいろな人の視点で同じ出来事を見るような構成になっています。その時は何でもないと思えた小さな出来事でも後から見たら見えてくることがたくさんあり、「ああ、こういうことだったのか。」と感心ばかりしてしまう、脚本の妙を感じることのできる映画です。

 僕は映画は脚本が命だと思っている人間なので、この映画のようなパズルのような凝った脚本の映画は大好きです。こういったアイデアとセンスがすべての映画は大スターも派手なアクションシーンも必要ないから、低予算でも作れるところがいいですね。この映画も知らない役者ばっかり出ているし、映像を見るにどう考えても金はかかっていないでしょう。しかしそのぶん脚本の組み立てにはかなり時間と労力を費やしたと思いますよ。

 ただ、大好きなぶん、同じような映画をたくさん見ているので、目新しさがまったくなかったんですけどね。タランティーノが出てきてからはほんとにこういう洋画は増えてますから。時間軸をいじくる手法も今さら何の感動もありません。一緒に見た僕の嫁はんはこの映画を大絶賛していましたが、それは彼女が洋画より邦画を比較的よく見ていて、こういう映画をあまり見ていないからでしょう。

 僕からしたら、同じような映画でもちょっと前に見たガイ・リッチーの「ロック、ストック&トゥー・スモーキング・バレルズ」の方が良かったんですけどね。僕の嫁にも、「運命じゃない人」をベタ褒めするんだったら、まずは「ロック、ストック&トゥー・スモーキング・バレルズ」を見ろよと言いたいです。「ロック、ストック&トゥー・スモーキング・バレルズ」の方が展開も登場人物もテンポもかなり強烈です。全体に漂うただならぬ雰囲気が実にカッコいいです。「運命じゃない人」は、よくできた映画なんですけど、地味で突き抜けた魅力がないんですね。もう一度見ようとは絶対に思わないですから。 

 

 ただ、この映画はこの映画で良さはあります。それは、登場人物が全員ほのぼのしていて、見てて非常に心地いいところです。こういう映画は万人に好かれます。この映画の脚本は悪く言えば小賢しいんですが、そういういやな見方をさせません。ヤクザの親分すら金がないので見せ金として一番上と下だけが本物の偽の札束を作るシーンなんて本当に情けなくて笑えます。まあ、僕は悪人やダメ人間として描かれているキャラクターをなぜか好きになってしまう映画が好きなので、この点でもちょっと物足りなかったんですが。

 この映画の点数は★7としときます。タランティーノやガイ・リッチーが出てくる前にこの監督がこの映画を世に出していたら、間違いなく満点なんですけどね。やはり見飽きているし、比べてしまいます。あるシーンで映る神田の事務所のファイルに「看護師」と記されていることから考えて、この監督にそれなりの才能があることは分かります。だからこそタランティーノの亜流では終わってほしくないですね。

 役者も板谷由夏以外はまったく知らない人だし、美男美女でもないですが、それが逆にこの人たちは自分と同じ普通の人々なんだとこちらに思わせ、素直に感情移入できます。主役を演じる中村靖日なんかは完全に素人に見えます。それがこの役者のいいところなんでしょう。唯一知っている板谷由夏も非常に役に合っていました。






<運命じゃない人 解説>

  5つの物語がパラレルに進行する新感覚ラブストーリー。監督は本作が劇場用長編デビュー作となる内田けんじ。主演は『恋は五・七・五!』の中村靖日。芯の強さを隠した桑田真紀役にテレビを中心に活躍している霧島れいか、熱い男の友情を見せる神田勇介に『ハッシュ!』の山中聡がふんしている。2005年カンヌ国際映画祭批評家週間へ出品されたことでも話題になった作品。
 典型的ないい人・宮田(中村靖日)をはがゆく思っていた私立探偵の神田(山中聡)は、いつまでも前の彼女のことを引きずっている宮田のために、レストランで1人で寂しそうに食事をしている女性(霧島れいか)をナンパするが……。

 

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