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おのづから言はぬを慕ふ人やあるとやすらふほどに年の暮れぬる(西行)
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~ヤスオーのシネマ坊主<第2部>~

 この映画はまずラストがいいですね。飛行場で飛行機の発着表示板を見て、何も言わずに佇む主人公で終わるのですが、それまでの数々のエピソードによる主人公の変化を考えると、色々想像出来るいいラストだと思います。最後リストラ通告の仕事をやめてすごい家庭的になった主人公の家族団らんのシーンで終わったらどうしようと思っていましたが、さすが「ジュノ」の監督、なかなかやります。

 ただ、監督がその主人公の変化を描きたかったのはわかるんですが、その変化のきっかけが少し弱いような気がしますね。僕も変わる前の主人公と一緒で人とは関わりたくないし人生に負荷をかけたくないタイプだからわかるのですが、ちょっと新人の小娘に説教を受けたぐらいでは絶対に変わりません。その小娘の説教も僕が聞く限りではそこまで心動かされるものではなかったですからね。もう一つの主人公が変わるきっかけであろう結婚を土壇場でキャンセルした妹の婚約者を説得して、この説得が婚約者の心を動かし、今まで身内から家族とみなされていなかった主人公が姉に認められるシーンもあるのですが、ここの主人公の説得も何でこんなんでうまくいくのかがよくわからないぐらい大したことなかったです。

 今まで私生活においては恋愛もせず結婚もせず人との関わりを避け続けてきた主人公が、新人の「インターネットによる解雇通告」のアイデアには人間的要素がなさすぎると自己矛盾のような形で反対するところや、二人の女性や家族との間に起こった様々な出来事によって、自分のポリシーを捨て人との関わりを求め始めた主人公が、最後には結局そのことによって深く傷ついてしまうところなど、全体のストーリーの流れは全然悪くないのに、主人公の変化のきっかけのシーンが弱いせいでイマイチ食い足りない映画になってしまっています。それがゆえに、僕はこの映画を見た後でも、「これからは人ともっと深く関わって生きていこう」とは、まったく思いませんでしたから。

 ちなみにこの映画はあらすじだけ見ると主人公はとても冷淡なビジネスライクの人間に見えますが、そんなことありません。変わる前から妹夫婦のためにスーツケースに入らないでっかい写真パネルを出張に持って行くようなイイ奴です。だから彼は人と関わることが嫌いなのではなく、人と関わることから逃げている心の弱い人間なだけです。そんな主人公のキャラ設定も魅力的で良かったし、ジョージ・クルーニーも上手いこと演じていたと思います。主人公を変える大きなきっかけとなった二人の女性を演じていた女優の演技も良かったです。そういうところからも出来の良い映画なのは間違いないんですが、何回も言いますけど、感想としては「食い足りない」としか言いようがない。惜しいですね。

 評価(★×10で満点)★★★★★★★

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ヤスオーと古都の片隅で暮らしています。プロ野球と連ドラ視聴の日々さまざま。
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