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おのづから言はぬを慕ふ人やあるとやすらふほどに年の暮れぬる(西行)
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ひとりの男の誕生から死まで、彼が遺した日記を通して語られる。映画にはよくある手法の、非常に地味な作りです。ただ異質なのは、その男が、「老人として生まれ、赤ん坊として死んでいく」こと。

しかしその異質さは、老人施設という世間とは少しずれた空気の中で育った彼の中では、「どうやら人ととは少し違っているようだ」くらいの意識で、コンプレックスとは無縁の世界を生きています。それも、捨てられた彼を、「子ども」として育てた養母の慈愛ゆえでしょう。

だから彼はごく普通の人生を生きる。友達ができる。秘密を共有する。はじめての娼婦に夢中になる。外の世界を見てみたいと思う。旅に出る。恋をする。戦争を体験する。自分を捨てた父と出会う。反発する。愛を知る。子どもを授かる。・・・

身体が逆まわしでなければ、平凡でありふれた男の一生であったことでしょう。

たとえ身体が思うように動かなくても、おそれを知らぬ若さがあった。ましてや経験を積めば積むほど、体力が満ちてくるならば、もう怖いものはない。

しかし皮肉なことに、社会を知るということは、すなわち己の異質さを自覚するということ。人生の折り返し地点をとっくに過ぎてから、彼は再び旅に出る。その行先はもう荒くれた海ではない。体力はありあまるほどにあるだろう、しかしあらゆるおそれを知った老境は、己の人生は何だったのか、いかに最期を迎えるかを異国の地で思索する。

平凡な女がいる。

小さなきっかけで恋が生まれ、離れ離れの間やきもきし、お互い別の異性と経験を重ねながら、結局は愛する人と結ばれる。一度は失った夢を追う。そばで見守ってくれる人がいる。そして新たな命を宿す。・・・

どういうかたちであれ、あらゆる愛の苦しみを知り、そして愛する人と最期まで寄り添うという、ありふれた願いをかなえた女の一生は、満ち足りたものであったでしょう。

これは、ある平凡な男と女の、不器用でいちずな愛のものがたり。

大きな感動はない。人生を生ききった爽快感のような、誰かの日記を読んだ罪悪感のような、なんともいえない不思議な感覚が残ります。 

 

映画としての感想を述べるならブラッド・ピットとケイト・ブランシェットの自然な若返りと老化を演出したCG技術は見事でした。が、CGではカバーしきれない演技力が要求されたであろうことも想像がつきます。著名な俳優ふたりなのにどちらが見劣りすることもなく、非常に美しい映像でした。

しかし。

私はこれを愛とは呼べない。

どーだこーだ言ったって、結局不倫だろーが。

評価:★★★☆(3.8)

 

~ヤスオーのシネマ坊主<第2部>~

 さすがアカデミー賞候補の作品なだけあって、尺が長いうえに、そんなにドラマチックな出来事が起こるわけでもないのに、見ててダルくなかったです。主人公の色々な人との出会いも特に主人公の人格形成に大きな影響を及ぼしたわけでもなさそうですが、実際僕も自分の人生を振り返ると人格形成に大きな影響を及ぼした人物なんてほとんどいないので、これもこれでいいんでしょう。船長やホテルの人妻との出会いと別れのように、特に彼らとの間にすごい出来事があったわけでもないんですが、いなくなってから時たま思い出すとちょっと切ない、というぐらいのさじ加減が、現実社会と同じくリアルでいいと思います。

 しいて言えば動物園で見世物にされたことがあるピグミー族のオッサンが主人公の人生の師匠でしょうか。彼はそのような辛い過去があっても性格は明るく、将来に向かって人生を楽しんでいます。主人公も風来坊的に世界各国をプラプラしているし、人妻も遠慮なく抱くし、「自分はどうしてこんな風に生まれてきたのか?」などとうっとうしいことは考えず、かなり人生を謳歌していると思います。映画中のセリフを引用しますが、しょせん「人は何も持たずに生まれ、何も持たずに帰る」ですからね。。死にかけのボケたジジイと生まれたての赤ちゃんはたしかにイーコールです。時計周りだろうが逆周りだろうが時は過ぎていくし、人生は立ち止まれないですから、人生はウジウジ考えずに楽しまないと損だと思いました。「前向きに人生を生きよう」というこの映画のメッセージはとてもよく伝わってきました。

 というわけでけなすところは特にない映画なんですが、大きな感動も特になかったですね。ラストもあっさりしており、この映画だとこうせざるをえないんでしょうが、つい「この監督はこの映画を作るにあたって特にアイデアがあったわけでもなく、単にしっとりとした味わい深い大作を作ってアカデミー賞を獲りたかっただけなんやろなあ。」と思ってしまいます。僕はデビッド・フィンチャーの映画は好きなのですが、「セブン」、「ファイトクラブ」、「ゲームj」などの冒険心に溢れたギラギラした映画の方が好きですね。今回のような映画はクリント・イーストウッドのような大御所に任せておけばいいんじゃないでしょうか。この映画の点数は「チェンジリング」と同じ★7ですし、イーストウッドが撮っても同じ点数でしょう。

 ちなみにブラッド・ピットはそんなに演技が上手かったわけではないんですが、若返った時にブサイクだったらこの映画は台無しだと思うので、やはり主役は彼で良かったんでしょうね。

評価(★×10で満点):★★★★★★★ 

助演女優賞候補…タラジ・P・ヘンソン

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