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1920年代、母ひとり子ひとりの生活を送るコリンズ家。ある日帰宅すると息子の姿が消えていた。五ヶ月後、息子を発見したという警察のしらせにより駅に向かったクリスティンの前に現れたのはわが子ではなかった。身長も歯形も違い、割礼の痕さえある。人違いという彼女の主張を、しかし警察は相手にしない。かつて息子の失踪を訴えた時と同じように。
いくら離れていたとはいえ、愛するわが子を間違えるはずがない。科学的証拠もそろっている。それなのに、事実をすりかえてしまう時の権力のおそろしさ。わずか80年前のアメリカの実話。
しかし、ここでクローズアップされるのは、いびつな社会ではない。権力と戦う正義でもない。ましてや、子どもを喪う悲しみでもない。
母、という唯一無二の存在。
嘘をついてウォルターと名乗った子どもを、クリスティンは家に連れて帰り食事を与え着替えを用意する。もちろん訴えを聞き届けてもらえない憎しみは時としてその子に向けられる。最初から息子でないことはわかっているから、愛を与えることはない。しかし彼女は彼を息子のベッドに寝かせ、息子の服を着せる。一方で息子のために戦いながら、彼女は彼に対して母としての行動を見せている。
彼女は最初から最後まで一貫して母だった。
子どもを守るために母が戦う作品は、数多くあります。しかし、それに感情移入できなければ、面白いと感じない視聴者もいるでしょう。この作品の優れているところは、クリント・イーストウッド監督独特の硬質な視点です。母という侃さを備えたクリスティンを、アンジェリーナ・ジョリーが表現豊かに演じていますが、警察に反抗したばかりに精神病棟にまで追いやられる彼女に思い入れを抱くことを、作品は拒否しています。彼女を救おうとした牧師に賛同することも、殺人に関与した少年に同情することも、無事に戻ってきた被害者と家族との再会でも、涙を流すことは不釣り合いに思えます。時間軸どおりに淡々と展開し、いちおうの解決で淡々と幕を閉じるこの物語からは、監督の主観はまったくといっていいほど感じません。正義が勝ったことで下げた溜飲はラストの一文で再び重い現実に捉われてしまいますし、勝ちと断定するにはお粗末な結果でしょう。このドラマチックな実話ならば、勧善懲悪ものやお涙頂戴ものにもできたはずです。そういう感情を徹底的に排除し、映像から何を受け取るか、それを観ている我々ひとりひとりにゆだねているように思います。
ウォルターと名乗り出た少年は、うやむやのうちに実の親のもとへ返されてしまいますが、その時クリスティンから贈られたウォルターの服を、彼は受け取ることを拒否します。その家庭環境は直接的には描かれませんが、少なくともウォルターより恵まれたものでないことは想像がつきます。ウォルターになりすまし日々を過ごせば過ごすほど、その母から愛をそそがれるべき唯一無二の存在にはなりえないことを、彼は思い知ったのかもしれません。愛を得られないことに子どもは敏感です。
母としてふるまうことは誰にでもできる。しかしそこに必ず愛という裏づけがなければ、すぐさま関係は歪んでしまうのでしょう。
評価:★★★★★(4.3)
~ヤスオーのシネマ坊主<第2部>~
クリント・イーストウッド監督の映画らしく、非常に丁寧な作りの映画で、誰が観ても褒める映画だと思います。僕は彼の映画は丁寧なんですが悪く言うとかったるいのでそんなに好きではなく、この映画ももうちょっと短くまとめれるやろ、何でこんな大作風にするねんと思ったのですが、脚本家がいいのか観てて退屈はしませんでした。僕は彼は監督としてそんなに才能があるとは思いませんが、この映画は脚本、役者、音楽、撮影、美術などの監督以外の要素はとてもハイレベルなので、作品全体の出来は非常に優れています。まあ、イーストウッドの映画はそういうのが多いのですが。彼は才能はともかく良い映画を作ろうという魂は感じるので、その魂に賛同する優秀なスタッフが集まるのでしょう。そういうところが彼の才能かもしれません。
この映画の一番の長所は、事実に基づいているということでしょうね。警察がここまで見え透いたウソをつき通そうとするわけないやろと思っていたんですが、映画を観た後この映画の基になった事件を調べてみたら本当にそうだったみたいです。そして警察のでっちあげを認めない主人公が精神病院に放り込まれたのも本当みたいですね。ここまで衝撃的な事件を、丁寧に描いたら、そりゃいい映画になりますよ。主人公を大衆への人気とりに利用しようとする警察と教会の対立構造や、社会そのものに背を向けて息子を生涯探し続ける主人公の信念なども、さすが事実に基づいた話なので、とても自然な流れで理解できました。
ただ、「ミスティック・リバー」なんかと比べると、ちょっと軽い感じがしましたね。精神病院の描写がとても映画チックでわざとらしいし、主人公の息子とは他のさらわれた子どもが7年ぶりに見つかったのですが、その子が長年名乗り出なかった理由にも違和感を感じましたね。ただ事実に基づいて淡々とストーリーを作っても観てて面白くないから、フィクションの描写も入れて面白みも出すこと自体は僕は賛成なんですが、こういうあまりにもウソくさいのは観てて萎えるのでダメですね。
主人公を演じたアンジェリーナ・ジョリーは、この役が合っているかどうかは別にして、がんばっていたのではないでしょうか。連続殺人を手伝っていたいとこの演技もちょっといいなと思いましたね。
評価(★×10で満点):★★★★★★★
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