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おのづから言はぬを慕ふ人やあるとやすらふほどに年の暮れぬる(西行)
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『ピアニスト』

母親に厳しく育てられ、40歳を過ぎても母とふたり暮らしの国立音楽大のピアノ教授・エリカ。

ある日、彼女の前に、不思議な青年・ワルターが現れます。

愛情をまっすぐにぶつけてくるワルターに、頑なだったエリカの感情も少しずつ揺さぶられ・・・。

イントロダクションを読んで、

「ああ、男性とは縁のなかった女性が、はじめて本物の恋愛を経験して運命を変えていくお話なんだわ。

こういうの好き好き~♪」

と、借りてみた私は、浅はかでした。

そんな話が、カンヌ国際映画祭でグランプリを獲るはずがなかったのです。

表向きはまじめで、地味で、オカタイ四十女のエリカですが、

その内にはとんでもない秘密を抱えていました。

『BAD KIDS 海を抱く』(村山由佳・作)という小説があります。

主人公の女子高生は、バスケ部キャプテンで生徒会副会長という優等生。

でも「いい子」を演じている彼女は、幼い頃から芽生えた人一倍強い性欲を秘めていました。

そのことにコンプレックスを抱えていた彼女は、とあることがきっかけで、

取引という名目で同級生と体の関係を持ち始めたのですが、

秘めていた自分をさらけだし、相手に行為や言葉で汚されることで、

欲求にまみれたみにくい自分の存在を許されているような気持ちになったのでした。

エリカも彼女と同じでした。

ワルターに秘密を打ち明けた時の彼女は、はじめて笑顔になり、安らかな表情を見せました。

でも、彼はエリカを救ってはくれませんでした。

エリカは、ただ、40年間抑えつけてきた素の自分を、受け止めてほしかったのです。

恋でなくてもよかったのです。誰でもよかったのです。ワルターでも、母親でも。

さまざまな描写は、これでもかというくらい強烈です。

でも、単に悪趣味だとか病的だとか、否定的な言葉で一蹴できない魅力(妖力?)があります。

まるで、触れた瞬間に血が飛び散ってしまうナイフ。

それにしても、主役の女優の演技には、鬼気迫るものがありました。

おすすめはできませんが、見て損はない映画です。

評価:★★★★☆

 

『ミリオンダラー・ベイビー』

31歳にしてボクサーを目指す女性と、指導力はあるのにどこか不器用な老トレーナー。

ふたりが固い絆で結ばれて、栄光を目指すサクセスストーリー・・・と思っていたら、

違いました。

後半の展開は予想だにせず、驚きました。

リングに取り憑かれてしまったかのように、現役にこだわるボクサーは、大勢います。

『あしたのジョー』や『がんばれ元気』の登場人物は、試合のせいで死んでしまうし、

現実だって、一歩間違えばそうなるかもしれないのに。

人を殴り、殴られ続けるリング上には、自分と相手の死がすぐそこに来ています。

怖いけど、見てみたい・・・

それが、逆説的魅力なのかもしれません。

普段の生活で、死を意識することなんて、めったにありませんから。

だからこの映画にも、最後まで死のイメージがつきまといます。

いかにして死と向き合い、その瞬間を迎えるか。

マギーとフランキーの最後の選択に、賛否両論はありますが、

死にぎりぎりまで近づいたボクサーにしか、わからない境地があるのかもしれません。

モーガン・フリーマンの語りは、渋みがありました。

やはり映画界に欠かせない存在ですね。

評価:★★★★☆

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